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【獣医が教える】犬のクッシング症候群〜原因から治療のすべて〜

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クッシング症候群は、内分泌・ホルモン性の疾患です。代謝の変化や免疫力・筋力の低下など、様々な症状を引き起こします。また、その病態は一通りではなく、複雑です。
今回は、原因や症状といった基礎知識から、実際に役立つ診断方法・治療法およびその治療費についてまで、クッシング症候群に関する知識を詳しくご紹介していきます。

クッシング症候群とは

クッシング症候群という言葉は、もともと人間の医療で使われていた名称です。そのため、犬には関係しないタイミングで、耳にする機会があったかもしれません。しかし、人間や猫に比べると、犬のクッシング症候群の発症率は格段に高くなっています。そのため、犬を飼ったことがある人であれば、より多くの方がその言葉を耳にしたことがあるでしょう。
クッシング症候群は、別名、副腎皮質機能亢進(こうしん)症と呼びます。副腎とは、腎臓のすぐ近くにある小さな臓器で、左右に一対で存在し、内分泌物質(ホルモン)の産生と放出をします。副腎の構造は皮質と髄質とに分かれていますが、それぞれの場所で複数の種類のホルモンを産生します。クッシング症候群では、なんらかの原因により、副腎皮質からのホルモン分泌が過剰になる状態が生じます。

クッシング症候群になりやすい犬種

日本におけるクッシング症候群の好発犬種は、ダックスフンドやプードルと言われています。しかし、飼育頭数の母数の差による影響も大きいため、この2種に限らず、主に5〜7歳以上の全ての犬種で発症します。

クッシング症候群の種類と原因

クッシング症候群には、大きく分けて3つの種類があります。

1.下垂体性

先述したとおり、クッシング症候群は副腎皮質から過剰なホルモンが分泌される疾患です。副腎は常に一定量のホルモンを分泌しているわけではなく、その量は増減しています。副腎がホルモンの分泌を増加させるとき、副腎を刺激するACTH(副腎皮質刺激ホルモン)というホルモンのはたらきがあります。このACTHは、脳の下垂体から分泌されます。つまり、下垂体に腺腫(せんしゅ)、腺癌(せんがん)などが起こり、ACTHの分泌量が過剰になったとき、それにともなって副腎が刺激され、クッシング症候群を引き起こすのです。
犬のクッシング症候群の約90%がこの下垂体性です。

2.副腎腫瘍

副腎自体が腫瘍化している場合です。副腎が腫瘍化すると、そのはたらきが過剰となり、クッシング症候群となります。
犬のクッシング症候群の約10%がこの副腎腫瘍です。

3.医原性

自然発生のものとは別ですが、医原性のクッシング症候群があります。医原性とは、他の疾患の治療をおこなった結果、二次的に発症してしまう疾患ということです。ステロイドの長期・高用量の投与が原因となる例が多くみられます。
ステロイドは、免疫の抑制や炎症を抑える作用があり、比較的即効性で、その治療効果も大きく、さらに安価な薬です。疾患によっては代用できる薬も少なく、とても恩恵が大きい薬です。
しかし、実はステロイド自体が副腎皮質ホルモンのひとつであるため、長期に過剰に投与すると、副腎の機能に影響を与え、クッシング症候群を引き起こしてしまうことが有ります。また、ステロイド投与量の限界値は個体差が大きく、一概には言えません。

クッシング症候群の症状

クッシング症候群はホルモンの疾患であるため、代謝の変化、免疫力の低下、筋力の低下などの様々な症状を引き起こします。その中でも代表的なものには、以下のようなものがあります。

多飲多尿

もっとも気づきやすい症状のひとつです。水をたくさん飲み、排尿の量も多くなります。
クッシング症候群の代表的な症状で、治療経過の指標としても観察されます。

皮膚症状

身体の広範囲に、左右対称性にみられる症状です。
菲薄化(皮膚が薄くなり、血管が目立つようになる)、感染症による発疹、脱毛、慢性炎症による色素沈着、石灰化などの症状が起こります。

腹部膨満

肝臓の腫大、内臓脂肪の増加に加え、腹部の筋力の低下により、お腹が大きくふくらむ症状です。
なんとなく太ったなと思って病院に行ったら、クッシング症候群だったというケースもよくみられます。

パンティング

ハッハッハッとベロを出して速い呼吸をしている状態です。呼吸筋の筋力の低下、腫大した肝臓による圧迫により、呼吸が苦しく速くなります。

神経症状

クッシング症候群が、下垂体性クッシング症候群であった場合、下垂体は腫大します。下垂体のすぐ上には脳があるため、腫大した下垂体は脳を圧迫し、沈鬱、痴呆、旋回、視覚障害などの神経症状が起こることがあります。

クッシング症候群の診断

クッシング症候群の診断は、上記の臨床症状に加え、動物病院で以下のような検査をおこなうことによって診断されます。

血液検査(1) ACTH刺激試験

ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を用いて、血液中の副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の測定をすることで診断する方法です。いくつかの条件と手順があります。

1)検査の前、数時間は絶食、安静にし、午前中に検査を行う。
2)すでにクッシング症候群の薬を内服している場合は、内服後3~6時間に検査を開始する。
3)採血をし、コルチゾールを測定する。
4)筋肉内、もしくは静脈内にACTHを投与する。
5)30~90分後に再度採血し、コルチゾールを測定する。
6)2つの検査結果から診断する。

ACTHは副腎を刺激するため、2回目の採血のときにはコルチゾールは最大限に放出されています。副腎腫瘍であれば、副腎の機能が亢進しているため、コルチゾールは異常高値を示します。また、下垂体性であった場合も、副腎が過形成を引き起こしていることが多いため、同様にコルチゾールの異常高値を示します。
一方、コルチゾールが異常低値を示した場合、医原性のクッシング症候群を疑います。これは、ステロイドにより下垂体のACTH分泌能力が低下し、同時に副腎のコルチゾール分泌能力も低下しているためです。

血液検査(2) 低用量デキサメタゾン抑制試験

デキサメタゾンとは、ステロイド系の抗炎症薬です。医原性のクッシング症候群で触れたように、ステロイドは副腎皮質ホルモンのひとつであるため、身体に投与されると副腎のはたらきに影響を与えます。
低用量のデキサメタゾンが投与された場合、血液中には過剰に副腎皮質ホルモンがあると判断され、下垂体からのACTHの分泌量が低下します(ネガティブフィードバック)。その結果、副腎皮質への刺激が減り、分泌されるコルチゾールの量も低下します。
しかし、クッシング症候群の症例であった場合、血液中に過剰に副腎皮質ホルモンがあってもネガティブフィードバックがうまくはたらかず、コルチゾールの分泌量も低下しません。
手順は以下のようになります。

1)一晩絶食する。
2)デキサメタゾンを低用量、静脈内に投与する。
3)絶食、自由飲水のまま、安静に過ごす。
4)8時間後に採血し、コルチゾールを測定する。

この検査方法の問題点は、時間がかかるということと、絶食時間が長いこと。また、その間にストレスが加わると結果が変わってきてしまうということです。絶食しながら動物病院の中で長時間過ごすことがストレスにならない犬の方が少ないため、結果の判定が難しく、ACTH刺激検査での判定が難しい時などに選択されます。

血液検査(3) 高用量デキサメタゾン抑制試験

高用量のデキサメタゾンを投与して、コルチゾールの変化を測る検査です。
低用量のデキサメタゾンを用いた検査との違いは、クッシング症候群が下垂体性なのか副腎腫瘍なのかの鑑別に用いることができる点です。
手順は以下のようになります。

1)デキサメタゾンを高用量、静脈内に投与する。
2)4時間後に採血し、コルチゾールを測定する。
3)8時間後に採血し、コルチゾールを測定する。

高用量のデキサメタゾンを投与すると、下垂体性であった場合はネガティブフィードバックが働き、コルチゾールの値が低下します。副腎腫瘍であった場合は、ネガティブフィードバックは働かず、コルチゾールの値も抑制されません。
ただし、例外もあるため、この検査は補助的に選択されます。

超音波検査

超音波を使って、左右の副腎の形や大きさを検査する方法です。

■下垂体性の場合
下垂体性クッシング症候群である場合は、副腎があまり変形せずに腫大します。下垂体からのACTHは、左右両側の副腎に同様に作用するため、副腎は左右とも腫大します。

■副腎腫瘍性の場合
副腎腫瘍であった場合、副腎は変形して腫大しています。
腫瘍が左右の副腎に同時に発症することは少ないので、基本的に左右どちらかの副腎だけが変形腫大します。
腫瘍化していない方の副腎は、むしろ萎縮し、描出が困難になります。

■非機能性副腎腫瘍の場合
まれに、副腎が腫大しているにも関わらず、副腎ホルモンの過剰分泌が起こらず、クッシング症候群とはならないことがあります。
クッシング症候群の症状を呈さないため、他の疾患の検査時や健康診断などで発見されます。

CT・MRI

CTやMRIを使って、下垂体や副腎を描出する検査です。
下垂体の形態の評価をするには最も適した検査と言えます。他の検査と比べると、対応できる施設も少なく、費用もかかり、全身麻酔をかけるなど大掛かりな検査ですが、下垂体の形態の評価は、病気の予後を知る上で重要です。

クッシング症候群の治療法

クッシング症候群の治療法は、下垂体性か副腎腫瘍か医原性かによって異なります。

下垂体性の場合

●内服
飲み薬による治療法です。錠剤とカプセルがありますが、人も吸引しないように気をつけます。副腎のホルモン産生を抑制します。
他の治療法と比べると、身体への負担が少ないことがメリットです。また、副作用も比較的少ないです。可逆的であるため、投与回数、量による病気のコントロールがしやすいことも利点としてあげられます。
一方、デメリットは、投薬量が過剰となった場合、コルチゾール分泌が抑制され過ぎ、副腎皮質機能低下症(アジソン病)の症状を起こすことがある点です。投薬開始後、元気食欲低下、嘔吐、下痢、ふるえなどの症状がみられたら投薬を中止し、すぐに動物病院を受診しましょう。
また、比較的まれですが、投薬によってネガティブフィードバックに変化が起き、下垂体の腫大を助長し、脳を圧迫して神経症状を引き起こしてしまうことがあります。

●放射線療法
放射線を照射し、腫大した下垂体を直接たたく治療方法です。
正常組織へのダメージを少なくしつつ、腫瘍細胞にしっかり効果を出せる線量で複数回にわたって治療します。
現在、放射線治療が可能な施設の数は多くありません。費用も高額になりますが、治療が奏効すれば、数ヶ月間無治療で生活を送ることが出来ます。

●外科切除
腫大した下垂体を、外科的に切除する方法です。
下垂体は脳の下にあるため、鼻の奥〜喉からの切開になります。
手技が難しく、小型犬や短頭種では適応となりません。
対応できる施設が少なく、費用も高額になりますが、根治的な治療法です。
治療後は下垂体がなくなってしまいますので、必要なホルモンを補充する治療を、生涯通じて行います。

副腎腫瘍の場合

●内服
飲み薬による治療法です。
下垂体性の場合と同様の薬を使用します。しかし、下垂体性と比べると治療のコントロールが難しいことが多いです。

●外科切除
腫瘍化した副腎を外科的に摘出する治療方法です。
副腎腫瘍は血管に浸潤しやすく、転移もしやすいため、これらの可能性がある症例では適応外になります。
また、副腎腫瘍の犬では、血管がもろくなっており、術創の治癒も遅いため、リスクが高い手術になります。

医原性の場合

●ステロイドからの離脱
医原性であった場合は、まず原因となっているステロイドを中止します。
ただし、急にステロイドを中止すると、副腎不全を起こすことがあるので、徐々に減らしていきます。
ステロイドは多くの疾患の症状を良化させてくれますが、逆にいうと、診断が間違っていても症状がよくなることがあります。基礎疾患に対して本当にステロイドが必須であるのか、他の疾患が隠れていないか再検討します。
他の治療法による基礎疾患のコントロールが難しい場合は、シクロスポリンなどの他の種類の免疫抑制剤の使用を検討します。
それでもコントロールができない場合は、基礎疾患と医原性クッシングのリスクを評価しつつ、治療法を調節します。

クッシング症候群の治療期間

クッシング症候群は外科切除を除いて完治しません。外科切除をした場合も、術後のホルモン補充治療が必要となります。したがって、基本的には治療期間は生涯に及びます。

クッシング症候群の治療費用

各治療法にいくらぐらいの費用がかかるのか確認していきましょう。

内服治療

定期的な検査を除けば、内服薬の費用だけで治療ができます。ただし、クッシング症候群に使われる薬は、現状まだ原価が高額なものしかありません。
一回の投与にかかる費用は300~600円ほどですが、症例によって、また病態の進行により必要になる投与量、投与回数は変わってきます。
1日に2回の投与が必要であれば、1日で600〜1,200円ほど、1ヶ月では18,000〜36,000円ほどの計算となります。大型犬では、これの3倍ほどかかることもあります。
クッシング症候群の症例は、心臓病や腎臓病、膵炎などを併発することが多く、そちらの治療費も加わると、より高額な費用がかかってきます。

放射線治療

放射線の費用は、治療効果にもよりますが、4回で40〜60万円ほど、必要であれば追加で治療します。
治療が奏効した場合、6ヶ月ほど無治療で過ごせることもあるため、治療が奏効した場合は6ヶ月で40〜60万円、1ヶ月に分割して考えると6〜10万円ほどの計算となります。

外科切除

副腎腫瘍の外科切除は15〜25万円ほど。ただし、副腎腫瘍は転移しやすく、部分切除になってしまった場合は症状が改善せず、結局他の治療法を併用し、費用がかさむことが多いです。

クッシング症候群になってしまったら

以上、犬のクッシング症候群について紹介してきました。
比較的よくみられる内分泌疾患ですが、完治することは大変難しく、生涯の治療が必要となることがほとんどです。
クッシング症候群の治療を内服治療でうまくコントロールすることができれば、犬の生活の質をほとんど落とさずに過ごさせることが可能です。多飲多尿をはじめ、易感染性による膀胱炎などの症状を、うまく抑えることを目標にしましょう。
クッシング症候群は、その症状が重度に進行してしまう前に治療を開始すると、よりコントロールがしやすくなります。日頃からよく愛犬の様子を観察し、些細な変化でも動物病院に相談できるよう心がけましょう。

監修/滝田雄磨(SHIBUYAフレンズ動物病院 院長)

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