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【獣医師監修】老化と間違えがち?犬のクッシング症候群とは 原因や症状、治療法など

高齢の犬に起きやすいといわれる「クッシング症候群」。確定診断が難しく、老化の症状と見過ごして悪化させてしまうこともあるので、注意が必要な病気です。今回は、クッシング症候群の原因や症状をはじめ、検査や治療法、治療費などについても解説します。

滝田 雄磨 先生

 獣医師
 SHIBUYAフレンズ動物病院院長

 麻布大学獣医学部獣医学科卒業
 東京農工大学農学部附属動物医療センター皮膚科研修医
 ふく動物病院勤務
 SJDドッググルーミングスクール講師

●資格:獣医師

●所属:日本獣医皮膚科学会日本獣医動物行動研究会

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クッシング症候群とはどんな病気?

高齢の黒いラブラドール
K Neville/gettyimages
クッシング症候群は、もともと人の医療で使われていた名称で、「コルチゾール」というホルモンがなんらかの理由で過剰分泌されることで引き起こされる病気です。コルチゾールは、腎臓の近くにある副腎という臓器から分泌されるため、「副腎皮質機能亢進症」とも呼ばれています。

コルチゾールはインスリンの働きを阻害したり、血圧を維持したりとさまざまな役割を担っているため、正常に働かないと体にさまざまな悪影響をおよぼしてしまいます。

コルチゾールを過剰に分泌させ、クッシング症候群を引き起こしてしまう原因としては、主に以下の3つが考えられます。

原因1.下垂体からのホルモンの過剰分泌

前述したように、コルチゾールは副腎から分泌されるホルモンです。副腎は常に一定量のホルモンを分泌しているわけではなく、脳の下垂体から出るACTH(副腎皮質刺激ホルモン)というホルモンの影響で、その量を増減させています。

つまり、脳の下垂体に腺腫(せんしゅ)や腺癌(せんがん)などなんらかの異常が起きて、ACTHが過剰に分泌されてしまうと、副腎が受ける刺激も多くなり、コルチゾールも過剰に分泌されてしまうのです。

犬のクッシング症候群の約90%が、この下垂体の異常が原因といわれています。

原因2.副腎の腫瘍化

副腎自体が腫瘍化してしまうと、たとえ下垂体が正常であっても、コルチゾールが過剰に分泌されて、クッシング症候群を引き起こしてしまいます。犬のクッシング症候群の約10%は、副腎腫瘍が原因で起こるとされています。

原因3.病気治療による二次的発症

まれに、ほかの疾患の治療を行った結果、二次的にクッシング症候群を発症する事例もあるようです。

例えば、免疫の抑制や炎症を抑える作用があり、さまざまな病気の治療薬として活用されているステロイドは副腎皮質ホルモンのひとつであるため、長期かつ高用量で投与すると、副腎の機能に影響を与えてしまうことがあります。

ただし、ステロイド投与量の限界値は個体差が大きいため、必ずしもクッシング症候群を発症するとはいえません

クッシング症候群になりやすい犬はいる?

一説には、ダックスフンドやプードルがクッシング症候群を発症しやすいといわれていますが、飼育頭数の母数の差による影響も大きいため一概にはいえません。どちらかというと、5~7才以上であれば、どんな犬種・性別の犬でもなる可能性があると考えておいたほうがよいでしょう。

クッシング症候群で見られる症状

上目づかいの犬
customphotographydesigns/gettyimages
クッシング症候群を発症した際に見られる症状には、以下のようなものがあります。

多飲多尿

クッシング症候群の代表的な症状とされているのが、水をたくさん飲むことと、排尿量が多くなることです。1日の飲水量が体重1㎏あたり100ml以上で、尿量が体重1㎏あたり50ml以上だと多飲多量であるといわれているので、愛犬がいつもどれだけ水を飲んで尿を出しているのか、日ごろ観察しておくことが大切です。

お腹が膨れる

お腹の筋力や運動意欲が低下するほか、肝臓の腫大や内臓脂肪が増加することで、お腹が大きくふくらむといわれています。なんとなく太ったなと思って病院に行ったら、クッシング症候群と診断されるケースも多いようです。

異常な食欲が原因と勘違いしやすい

異常な食欲も起きるため、食べ過ぎでお腹がふくれたと勘違いすることも多いようです。年のわりに食べているから大丈夫と見逃していると、症状が悪化してしまうので注意が必要です。

皮膚疾患

体の広範囲かつ左右対称に、発疹や色素沈着(黒ずみ)、皮膚の石灰化や慢性炎症などの皮膚疾患が見られます。皮膚が薄くなることで脱毛も起こるため、年をとったせいだと勘違いしやすいといわれています。

神経症状

下垂体が原因の場合、腫大化した下垂体がすぐ上の脳を圧迫することで、沈鬱や旋回、視覚障害などの神経症状が起こることが考えられます。認知症のような、徘徊や夜泣きなどの症状も見られます。

呼吸が速くなる

呼吸筋の筋力が低下するほか、腫大した肝臓で圧迫を受けるため、呼吸が速く苦しくなります。ハッハッハッと、ベロを出してあえぐような呼吸が見られる場合は注意してください。

ほかの病気を併発する危険も

コルチゾールは体の免疫機能を抑える働きもあるため、クッシング症候群が進行すると感染症などへの防御力も低下して、以下のような病気を併発することが考えられます。

  • 糖尿病

  • 膀胱炎

  • 寄生虫感染

  • 膿皮症

  • 急性膵炎 など

クッシング症候群の検査方法

ゴールデン・レトリーバー
Image Source/gettyimages
クッシング症候群の検査方法としては、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 身体検査

  • 血液検査

  • 特殊血液検査(デキサメタゾン抑制試験など)

  • 尿検査

  • X線検査

  • 超音波検査

  • CT検査/ MRI検査 など


とはいえ、クッシング症候群は、確定的な診断や原因の特定が難しいといわれています。上記のような検査結果のほか、症状などを問診して総合的に判断されるようです。

クッシング症候群の治療法

ソファの上に横たわっているボーダーコリー犬
Ksenia Raykova/gettyimages
残念ながらクッシング症候群は、外科切除の場合を除いて予防や根本的な治療が難しいとされる病気です。外科切除をしても術後の治療が必要となってくるため、治療期間は生涯におよぶことを覚悟してください。

内服治療

下垂体や副腎腫瘍が原因のときに行われる治療法で、トリロスタンやミトタンといった、コルチゾール分泌を抑える薬を投与します。ほかの治療法と比べると体への負担が少なく、投与回数や量による病気のコントロールがしやすいというメリットがあります。

ただし、根本的な治療ではないため、基本的に生涯薬を飲み続ける必要があります。治療方針について獣医師によく説明してもらいましょう。薬の投与量や回数などについては、犬の症状や副腎皮質ホルモン濃度により異なるため、定期的な検査で獣医師が判断していきます。

投薬治療は副作用に注意

投薬量が過剰になった場合、副腎皮質機能低下症(アジソン病)や、下垂体の腫大による神経症状を引き起こすおそれがあります。元気や食欲の低下、嘔吐や下痢などの症状が見られることもあるので、異変が見られた場合はすぐに投薬を中止して、動物病院を受診してください。

放射線治療

放射線を照射し、腫大した下垂体を直接たたく治療方法です。正常組織へのダメージを少なくしつつ、腫瘍細胞にしっかり効果を出せる線量で複数回にわたって治療します。

現在、放射線治療が可能な施設の数は多くはなく、費用も高額になります。症状の改善のために、内科的治療を並行して行う必要もあります。

外科切除

腫大化した副腎や下垂体を、手術で摘出する治療法です。治療後は下垂体などがなくなってしまうため、必要なホルモンを補充する治療を、生涯を通じて行う必要があります。

ただし、手術は高額かつ難しく、受けられる病院も限られるほか、腫瘍の転移状況によっては手術自体を受けられない場合もあります。その場合は、内科的治療や放射線治療に切り替えられます。

クッシング症候群の治療費用は?

ここからは、各治療法にいくらぐらいの費用がかかるのかを見ていきましょう。

内服治療の平均費用

クッシング症候群に使われる薬は、現状まだ原価が高額なものがほとんどです。症状進行度合いによって投与量や投与回数が変わってきますが、1回の投与にかかる費用は300~600円ほど。1日2回の投与だと、小型犬でも1ヶ月で18,000~36,000円ほどかかります。

また、心臓病や腎臓病などの病気を併発した場合、そちらの治療費も加わるため、より費用が高額になることが考えられます。

放射線治療の平均費用

放射線の費用はほかの治療法よりも高額です。放射線治療の費用は治療効果にもよりますが、4回で40~60万円ほど。1ヶ月に分割して考えると6~10万円になるといわれています。

外科切除の平均費用

外科切除の治療費は、15~25万円ほど(※副腎腫瘍の場合)といわれています。ただし、腫瘍が転移していて部分切除になった場合、ほかの治療も平行して行うため、これより治療費が高額になることが考えられます。

日ごろから愛犬を観察して早期発見・治療を!

プードル
undefined undefined/gettyimages
クッシング症候群は、一度発症してしまうと生涯治療が必要な大変な病気です。とはいえ、症状が重度に進行してしまう前に治療を開始し、内服薬などでうまく症状をコントロールできれば、犬の生活の質を落とすことなく過ごせるといわれています。

日ごろから愛犬の様子をよく観察し、少しでもクッシング症候群に似た症状が見られる場合はすぐに動物病院を受診して、早期治療に臨みましょう。

クッシング症候群については、下記の記事も参考にしてください。
参考/「いぬのきもち」2017年2月号『手遅れになる前に発見したい!飼い主さんが気づきにくい犬の病気15 ドッグドック体験レポートつき』
   「いぬのきもち」2020年5月号『病気、しつけ、感情も!すべてにかかわっていた! 気になる!ホルモンのことすべて』
監修/滝田雄磨先生(SHIBUYAフレンズ動物病院院長)
文/pigeon
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
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