犬の死亡原因第3位に挙げられる「腎不全(腎臓病)」。症状がわかりにくかったり、急速に進行したりするため、気づいたときには命にかかわるほど重症化している危険性がある怖い病気です。今回は、犬の腎不全の原因や症状、治療法や予防法などを解説します。
犬の腎不全はどんな病気?原因は?
「腎不全(腎臓病)」とは、血液をろ過して尿をつくり、老廃物を体外に送り出す機能をもつ腎臓が、なんらかの原因で正常に働かなくなり、老廃物が体内にたまってしまう病気です。老廃物は脳や臓器にとって毒性があり、そのままたまり続けると体にさまざまな悪影響をおよぼします。
犬の腎不全は、大きく「急性腎不全(急性腎障害)」と「慢性腎不全(慢性腎臓病)」にわけられ、それぞれで原因や進行速度などが異なります。
急性腎不全(急性腎障害)の原因
急性腎不全(急性腎障害)は、数時間から数日という短期間で、急激に腎機能が低下する病気です。適切な治療を行うことで腎機能が回復することもありますが、腎臓の障害が大きいと慢性腎不全へ移行するケースもあります。急性腎不全の原因としては、主に以下の3つが考えられます。
- 腎毒性物質を摂取したことによる中毒、感染症などによる腎臓障害
- 心臓疾患や熱中症、出血などによる腎臓への血流低下
- 尿路結石や膀胱破裂による排尿トラブル
犬が中毒を起こす腎毒性物質としては、ユリ科の植物や農薬、ぶどうやレーズンなどの果物が挙げられます。なかでもぶどうは、大量に摂取した犬がそろって急性腎不全を起こしたという報告が世界各国でなされたこともあり、近年特に注目を集めています。
現在の研究では、ぶどうの成分が急性腎不全を起こすメカニズムは解明されていませんが、犬が中毒を起こすことで有名なチョコレートや玉ねぎと同様、ぶどうやレーズンも犬にとって危険な食材だと認識しておきましょう。
慢性腎不全(慢性腎臓病)の原因
慢性腎不全(慢性腎臓病)は、数か月~数年かけて徐々に腎機能が低下する病気です。主に10~13才のシニア犬に多く見られ、一度発症すると完治ができないともいわれています。
急性腎不全と比べてはっきりとした原因は未だ解明されていませんが、主に以下のようなものが原因と考えられています。
- 老化による腎臓機能の衰え
- 遺伝的疾患、自己免疫疾患
- 急性腎不全や熱中症などほかの疾患による腎障害
- 過剰な塩分やたんぱく質を含んだ偏った食生活
- 悪性腫瘍 など
腎不全になりやすい犬はいる?
腎不全は、高齢の犬ほど発症するリスクが高くなるといわれています。また、一概にはいえませんが、以下のような犬種の発症報告も多いようです。
- ミニチュア・シュナウザー
- ゴールデン・レトリーバー
- イングリッシュ・コッカー・スパニエル
- ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア
- シー・ズー
- ビーグル
- ブル・テリア
- キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル など
犬が腎不全を発症した際に見られる症状
急性腎不全の場合も慢性腎不全の場合も、症状は病気の進行度合いによって異なります。それぞれ、初期と末期に現れる症状について見ていきましょう。
急性腎不全(急性腎障害)の症状
急性腎不全では、主に以下のような初期症状と末期症状が見られます。
初期症状
- 食欲・元気不振
- 下痢・嘔吐
- 一時的な尿量・飲水量の増加
- 脱水 など
末期症状
- 体温低下
- 意識障害
- 乏尿・無尿症状
- 電解質異常
- けいれん など
急性腎不全がさらに進行すると、血中にたまった老廃物が脳や全身の臓器に障害を与える尿毒症を引き起こし、死に至る危険性もあります。
慢性腎不全(慢性腎臓病)の症状
慢性腎不全では、主に以下のような初期症状と末期症状が見られます。
初期症状
初期の慢性腎不全はこれといって目立つ症状がなく、発症に気づかない場合がほとんどです。ただし、腎機能が33%から25%まで失われると、尿量・飲水量が増えるなどの症状が現れてきます。
末期症状
慢性腎不全が進行して腎臓の機能が10%から5%まで失われると、以下のような症状が現れます。
- 毛づや・食欲の低下
- 嘔吐
- 貧血
- 口内粘膜の壊死・アンモニア臭
- 乏尿・無尿
- けいれん
- 意識障害 など
腎不全を発症した場合の余命は?
慢性腎不全と動物病院で診断された場合の余命は、およそ1年半~2年といわれています。また病気が進行し尿毒症になっていたときには、1週間~1カ月のうちに絶命してしまうケースも。
一方、急性腎不全は前述したように、原因を特定して適切な治療をすることができれば、回復して助かる可能性があります。とはいえ、状態の進行が速いため、発見が少しでも遅れると、動物病院に駆けこんだときにはすでに手遅れの状態になっていることも多く、治療を開始しても数日で息を引き取ってしまうこともあります。
腎不全の検査・治療法とは
ここからは、腎不全の発症が疑われる場合の検査方法と、確定診断された場合の治療方法についてご紹介します。
急性腎不全(急性腎障害)の検査・治療法
検査方法
急性腎不全では、主に以下のような検査が行われます。
ほかの病気が発症原因と疑われる場合は、随時検査が追加されます。
治療法
急性腎不全の治療は、体内にたまった老廃物を排出することと、尿道の閉塞や腎機能を低下させている原因を取り除くことが優先されるため、入院したうえで以下のような集中治療を行います。
- 利尿剤の投与
- 制吐剤・制酸剤の投与
- 消化管運動促進剤の投与
- 輸液療法
- 透析治療 など
なお、症状が重度の場合に行われる透析治療は、すべての動物病院で受けられるわけではないので注意してください。
慢性腎不全(慢性腎臓病)の検査・治療法
検査方法
慢性腎不全では、主に以下のような検査が行われます。
- 尿検査
- 血液検査
- X線検査
- 超音波検査
- 尿蛋白クレアチニン比 など
こちらもほかの病気が発症原因と疑われる場合は、特殊検査など随時検査が追加されます。
治療法
前述したように、慢性腎不全は完治が望めないため、病気の進行をできるだけ緩やかにし、発症後も犬が快適に過ごせるよう体調を維持することに重きを置いた、以下のような治療を行うことになります。
- 静脈点滴・皮下点滴
- 食事療法(腎不全用療法食)
- 腹膜透析・血液透析
- ACE阻害薬
- リン吸着剤 など
腎不全の犬のホームケア
水分補給
腎不全の場合は通院で皮下点滴を行うことが多く、自宅で充分な水分補給ができていれば、この回数を減らすことができるかもしれません。たとえば、ウェットフードにしたり、いつものドライフードをふやかすなどの方法があります。しかし、犬の状態によっては、水分の与えすぎによって嘔吐など消化器の症状が出ることもありますので、決して自己判断で与えようとしないでください。
療法食
獣医師の指示にそって療法食を与えることになります。病気の進行に伴って、療法食の種類などが変わることがあります。
療法食は、トッピングなどほかの食材と混ぜることで効果が落ちる場合がありますので、それだけをそのまま与えることが基本です。しかし、全く食べない場合や、かなり症状が進行していて衰弱が激しい場合は、与え方についてかかりつけの獣医師によく相談してみましょう。
リラックスできる生活環境
腎不全の症状が進行した場合は、暑さや寒さの対策により一層気を配り、適度なスキンシップを図りながら、安心できる生活環境を整えてあげましょう。
愛犬の腎臓を守るために心がけたいこと
腎不全は、飼い主さん次第で予防したり進行を食い止められる病気ではありませんが、愛犬の腎臓を守るために心がけたいことについてご紹介します。
中毒性物質の排除
ぶどうなどの腎毒性物質を与えないことはもちろん、犬の生活範囲にそれらの物質を置かないようにすることも大切です。また、冷蔵庫など、食材がある場所には入らせないための工夫も行うようにしてください。
飲水量の確保
体内の水分が不足するのを防ぐためにも、充分な量の水を飲めるよう、常に新鮮な水を用意しておきましょう。
バランスのいい食事
栄養の偏った食事や、人が食べる味の濃い食事は腎臓に大きな負担をかけてしまいます。総合栄養食などバランスのいい食事を与えることを心がけ、人の食事などを与えることは避けてください。
定期的な健康診断
前述したように、腎不全はほかの病気から引き起こされることがあるため、病気の早期発見・予防のためにも、定期的にワクチン接種や血液検査などの健康診断を受けるようにしましょう。
日ごろから愛犬を観察して早期発見・治療を心がけよう
症状も進行スピードも異なる急性腎不全と慢性腎不全ですが、発症後も愛犬が健やかに暮らしていくためには、どちらも早期発見・治療を行うことが大切です。
日ごろから愛犬の様子をよく観察しておき、おしっこの仕方や水の飲み方が違うなど少しでも異変を感じたら、早めに動物病院を受診しましょう。
監修/石田陽子先生(石田ようこ犬と猫の歯科クリニック院長)
文/pigeon
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。