「ホルモンの病気」と言われても、あまり聞きなじみがないですよね。今回は、犬のホルモンの病気のなかでも発症が多い「甲状腺機能低下症」「副腎皮質機能亢進症」の2つについて、獣医師の森昭博先生に教えていただきました。早期発見に役立ててください。
「ホルモン」とは
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女性ホルモンや男性ホルモンなど聞きなじみのあるものから、そうでないものまで100種類以上もあるホルモン。体の中にある内分泌器官・腺から分泌される物質で、血流に乗って特定の器官に作用します。血圧や血糖値、体内の水分などを一定範囲に調整する、生命維持に欠かせない存在です。ホルモン量のバランスが崩れると、体の調整機能が乱れ、病気を引き起こすことがあります。
ホルモンの病気は血液検査でわかることが多い
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ホルモンは血液中に分泌されるため、血液中のホルモン値を測定する検査で異常を見つけることができます。また、一般的な血液検査でも特定の数値に異常が出て、発見につながるケースも。ただし、病気の確定は血液検査だけでなく、問診や症状、画像診断などから総合的に判断します。
甲状腺機能低下症
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甲状腺が萎縮して機能が低下し、甲状腺ホルモンの分泌量が減ることから起こります。萎縮する原因の多くは、自らのリンパ球が甲状腺を攻撃する自己免疫異常だと考えられています。1〜10才くらいの犬に見られ、3〜7才での発症が最も多い病気です。
どの犬でもなり得ますが、とくに以下の犬種は要注意。
・レトリーバー種
・シェットランド・シープドッグ
・アメリカン・コッカー・スパニエル
・シベリアン・ハスキー
・ダックスフンド
・ビーグル
・ミニチュア・シュナウザー など
よくある症状
体の代謝を活発化させるホルモンが不足して、全身の代謝が落ちることで、元気がなくなる、あまり食べないのに太る、脱毛する、顔の皮膚がたるむといった症状が出ます。
治療方法
治療はホルモン製剤を服用し、甲状腺ホルモンの数値を正常値まで高めます。はじめは2〜4週間に1回の通院で薬の量を調整。投薬量とホルモン値が安定してきたら、3〜4カ月に1回の通院で生涯治療を続けます。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
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副腎から分泌されるコルチゾールが、過剰に増えることで起こります。過剰分泌の原因の多くは下垂体の腫瘍ですが、副腎の腫瘍のケースも。また、別の病気の治療でコルチゾールの作用をもつステロイド剤を1カ月以上、多量投与した場合でも起こることがあります。10才前後での発症が多く、どの犬種でもなり得ます。
よくある症状
もっとも多い症状は多飲多尿で、発症した犬の9割に見られます。異常な食欲増進もよく見られ、空腹のあまり拾い食いや異物を食べる犬もいるほど。このほか、皮膚の石灰化や腹部膨満なども特徴です。
治療方法
検査で病気が疑われても、治療は症状が出てから始めます。治療はコルチゾールの分泌を抑える薬の投与が中心です。実施できる動物病院は限られますが、外科手術や放射線療法が選択される場合もあります。
ホルモンの病気は一生つきあっていかなければなりませんが、早期発見が大切です。愛犬の様子を日々観察し、わずかな違和感にも気づけるようにしたいですね。
お話を伺った先生/森昭博先生(日本獣医生命科学大学獣医保健看護学科准教授 獣医師)
参考/「いぬのきもち」2025年6月号『聞きなじみがなくてピンとこない…… ホルモンの病気って何?』
文/柏田ゆき
※記事と写真に関連性がない場合もあります。