ホントにあった、犬にまつわる事件簿を紹介!
この連載では、過去に実際に起こった犬がらみのトラブルと、それに対して裁判所から下された判決について解説します。同じような事件が起こった場合の参考になります。
今回ご紹介するのは、東京地方裁判所で平成13年10月11日に判決が出た事例です。
※この記事の解説は、ひとつの例にすぎず、まったく同一の解決・判決を保証するものではありません。個々の事件の判決については裁判所に、解決策はその当事者に委ねられます。
お話してくれたのは……渋谷 寛先生
弁護士/渋谷総合法律事務所。ペット法学会事務局次長。動物の医療過誤訴訟を担当するなど、ペットと法律の問題に力を注ぐ。共著に『Q&A ペットのトラブル110番』(民事法研究会)など。
散歩中の愛犬が、すれ違った幼稚園児に襲い掛かった!
愛犬を制止できず、女の子は顔に大ケガを負ってしまった
Aさんは、父親と飼育している愛犬の散歩に出たところ、前方から4才の女の子と、女の子の妹を乗せたベビーカーを押す母親が近づいてきました。Aさんの愛犬は大型犬で、散歩中にほかの犬や、その飼い主に向かっていくことがたびたびありました。そのためAさんは、道路のいちばん端に寄って立ち止まり、愛犬と女の子の間を自分の体で遮るようにして立ちました。
しかし、愛犬を完全に制止することができず、愛犬は女の子の左ほおや首などを噛んでしまいます。女の子は、2日間入院する大ケガを負い、左ほおや左手などに傷あとが残ってしまいました。
さらに、女の子はこの事件がきっかけで犬に恐怖心をもつようになったこともあり、女の子と両親は、Aさんおよび愛犬の所有者であるAさんの父親を相手取り、治療費や損害賠償を求めて裁判を起こしました。
犬のすぐそばを通った相手方の責任は認められなかった
裁判では、Aさんはリードを短く持ち、首輪も握って愛犬を制止する努力をしていたことを主張。また、愛犬と女の子の間を遮るようにAさんが立ったことから、相手側も犬に近づけば危険と理解できたはずなのに、犬のすぐそばを通ろうとしたために事故が起こったとも主張し、相手側にも責任があると過失相殺を訴えました。しかしAさんの主張は認められませんでした。
判決は……総額330万円以上の支払いが命じられた
このケースのように、飼い主さんの側が気をつけていても、事故が起こってしまうこともあります。日ごろから散歩中でも愛犬をきちんと制止できるしつけを取り入れることは大切です。また、小さな子どもが進路上にいることに気づいたときは、子どもが不用意に近づいてくる可能性も考慮して、その場を離れるなどの対応をし、事故を未然に防ぎたいものです。
参考/『いぬのきもち』2017年11月号「ホントにあった犬の事件簿」
構成・文/豊島由美
イラスト/macco