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獣医師監修|犬の子宮蓄膿症~症状と治療、手術の費用やメリット・デメリット
子宮蓄膿症(しきゅうちくのうしょう)は、避妊手術をしていないメス犬特有の病気です。この記事では、犬の子宮蓄膿症の原因や症状、治療、予防法のほか、手術をする場合・しない場合のメリット・デメリット、実際の飼い主さんの声をもとに調べた最新の治療費などについてご紹介します。

石田 陽子 先生
石田ようこ犬と猫の歯科クリニック院長
麻布大学獣医学部獣医学科卒業
●経歴:ぬのかわ犬猫病院本院副院長/ぬのかわ犬猫病院中田分院院長 など
●資格:獣医師
●所属:日本小動物歯科研究会/比較歯科学研究会/日本獣医動物行動研究会
犬の子宮蓄膿症とは? 主な症状や飼い主さんが気づいたきっかけ
子宮蓄膿症は子宮内に膿がたまるメス特有の病気
子宮蓄膿症は子宮に細菌が入って炎症を起こし、子宮内に膿がたまるメス犬に特有の病気です。
発情期後の黄体期に発症することが多いとされ、膿を排出する「開放性子宮蓄膿症」と、排出しない「閉鎖性子宮蓄膿症」の2種類に分けられます。
犬の子宮蓄膿症の症状
はじめのうちは目立った症状が見られませんが、子宮内に膿がたまり病状が進行するにつれて、元気・食欲の低下、吐き気、おなかが腫れている、多飲多尿、開放性の場合は陰部から膿や血の混じった分泌液が出てくるなどの症状が見られます。
子宮蓄膿症が悪化すると、腎不全や肝障害、敗血症などの重大な合併症を引き起こすほか、子宮が破裂して膿が腹腔内に漏れ出すと腹膜炎を発症し、短時間で死亡してしまうおそれもあるため、十分注意が必要です。
なお、開放性子宮蓄膿症の場合は子宮頚管が開いているので外陰部から膿が排出されますが、閉鎖性子宮蓄膿症は子宮頚管が閉じているため外陰部から膿が排出されません。そのため、閉鎖性子宮蓄膿症は開放性に比べて症状に気づきにくく進行も早いため、敗血症や子宮破裂を引き起こすリスクも高いといわれています。
こんな症状が見られたら要注意!子宮蓄膿症のサイン
発情終了1~2カ月後に以下のような様子が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
- よく水を飲む
- よくオシッコが出る
- 食欲がなくなる
- 元気がなくなる
- 嘔吐や下痢をしている
- しきりに陰部をなめる
- 陰部から膿が出る
- 外陰部が腫れる
- 発情出血がいつもより長期間続く など
飼い主さんの体験談:愛犬の子宮蓄膿症に気づいたきっかけ
実際に愛犬が子宮蓄膿症と診断された経験のある飼い主さんは、何がきっかけで異変に気づいたのでしょうか?「いぬのきもちアプリ」でアンケートを実施して、体験談を聞いてみました。
※2021年8月実施「いぬのきもちアプリ」内アンケート調査(回答者数 101人)
- 「急に元気がなくなった」(同意見複数)
- 「おなかが膨らんでいる・張っているのに気づいた」(同意見複数)
- 「食欲不振」(同意見複数)
- 「水を大量に飲む」(同意見複数)
- 「膿が出ていた」(同意見複数)
- 「だらだらと出血が続き、色がチョコレート色になり、かたまった出血になり始めたので蓄膿症だと思った」
- 「オシッコに何か混じっているのと、ニオイがキツくて気づいた」
- 「立ち上がるのを嫌がる・散歩で歩きたがらない」
- 「体を縮こめていた」
- 「ケージから動けず震えていた、食欲不振、嘔吐、血尿、目力が弱くなっていた、動物病院へ行く途中の車内で失禁した」
- 「目ヤニがひどかった」
- 「抱っこしようとしたらキャンキャンと鳴いて嫌がったので、おかしいなと思い、動物病院でレントゲンを撮ったら子宮蓄膿症と言われた。水のがぶ飲みもなく、ただキャンキャンと鳴いただけだったが、たまたま撮ったレントゲンで見つかったのかもしれない」など
犬の子宮蓄膿症の検査・診断方法とは?
子宮蓄膿症の疑いがある場合、以下のような検査を行います。
問診と身体検査
発情出血の時期や、多飲多尿などの症状の有無を問診で確認します。陰部からの出血がないかなどの身体検査も行い、この段階で子宮蓄膿症の特徴的な症状が出ていれば、より詳しく検査を行います。
超音波検査/レントゲン検査
まず、レントゲン検査で子宮の異常を確認し、子宮蓄膿症の疑いがある場合は、腹部に超音波を当て子宮内を検査します。本来、子宮の中は空洞なので異常がなければ何も映りませんが、子宮蓄膿症の場合は膿がたまっているのでそれが映し出されます。
子宮蓄膿症は手術が1日遅れるだけでも手遅れになる危険があるため、問診の段階で特徴的な症状が出ていなくても、未避妊の場合は念のためレントゲン検査や超音波検査を実施します。
血液検査
白血球数の増加や炎症の指標を確認するために血液検査を行い、体の中で影響を受けている部位や重症度を判断します。全身の状態を把握することで、緊急性の高さや手術のリスクなどを考慮し、獣医師が適切な治療方針を決定します。
犬の子宮蓄膿症の原因・かかりやすい犬とは?
子宮蓄膿症の原因
子宮蓄膿症は、子宮内に細菌が入り込むことで発症する病気です。本来、子宮には細菌を防ぐ力が備わっていますが、ホルモンバランスが崩れて黄体ホルモンが長期間分泌されると抵抗力が弱まり、大腸菌やブドウ球菌などの細菌に感染しやすくなります。
とくに、発情期後の黄体期は黄体ホルモンが多く分泌され、体の免疫機能も低下しているため、細菌感染を起こして子宮蓄膿症を発症しやすくなります。
子宮蓄膿症にかかりやすい犬
子宮蓄膿症は避妊手術をしていない高齢のメス犬に多く見られ、とくに子犬を産んだことがない犬や、何年も産んでいない犬がかかりやすいと考えられています。
犬の子宮蓄膿症の治療方法とは? メリット・デメリットや再発の可能性について
犬の子宮蓄膿症の治療法は、卵巣・子宮を摘出する「外科手術」と、注射により子宮内の膿を排泄させる「内科治療」に大きく分けられます。
病状や今後の妊娠希望の有無により治療法を選択することになりますが、一般的には「外科手術」をすすめられるケースが多いでしょう。
「外科手術」のメリット・デメリット
先述のとおり、子宮蓄膿症は手術が1日遅れるだけで命にかかわる場合もあるため、発見時に即手術が行われるケースも少なくありません。
手術を選択するメリットとしては、直接治癒につながる、再発が起こらないといった点が挙げられますが、卵巣・子宮を摘出することから、妊娠ができなくなるというデメリットもあります。
なお、手術を行うには全身麻酔をかけ、重篤な合併症がある場合は回復が難しい可能性があります。
「内科治療」のメリット・デメリット
内科治療は子宮蓄膿症があまり重篤でない場合と、どうしても繁殖をさせる目的がある場合において選択される治療方法です。
この治療法のメリットとしては、卵巣や子宮を摘出しないため、治療後も妊娠することが可能という点が挙げられます。しかし、注射による副作用のほか、再発のリスク(27カ月間で77%の再発率)があることが確認されており、閉鎖性子宮蓄膿症の場合は、内科治療を行うと子宮が破裂する危険性があることも知られているため、さまざまなデメリットがある方法といえるでしょう。
手術する・しない、どう考える?
手術をする・しないの判断は、愛犬の子犬を希望するのかという点が判断材料になってくるでしょう。内科治療には再発のリスクもあり、適用できるのは症状が重篤でない場合に限られます。獣医師とよく話し合い、愛犬の状況をしっかりと把握したうえで治療方法を決めてください。
犬の子宮蓄膿症の手術の成功率や費用は? 老犬でも受けられる?
手術の成功率はどれくらい?
子宮蓄膿症の手術は、無事に成功し術後の経過も良好であれば、完治するケースも多いです。しかし、合併症である敗血症やショックを起こしているケースでは、全体的に適切な治療を行ったとしても4~20%の致死率が報告されています。
老犬でも手術は可能?
「老犬でも手術を受けられますか?」という質問も多く聞かれますが、子宮蓄膿症はシニアの年齢で多い病気です。手術をしなければ治療ができないため、老犬でも手術を行うのが一般的といえるでしょう。
子宮蓄膿症の手術費の目安
症状レベルや地域などによって異なりますが、手術費用のみで50,000円~、入院や麻酔、検査などの費用を含めてトータルで、150,000円前後は必要となるケースが多いようです。まずはかかりつけの動物病院に聞いてみましょう。
※2018年11月、動物病院Aの例(いぬのきもちweb編集室調べ)
飼い主さんの体験談:子宮蓄膿症の治療方法とかかった費用
先ほどご紹介したアンケートでは、愛犬が受けた子宮蓄膿症の治療内容と、かかった費用についても飼い主さんにお話をうかがいました。
※2021年8月実施「いぬのきもちアプリ」内アンケート調査(回答者数 101人)
- 「すぐ手術になりました。費用は7万円弱でした」
- 「手術をして8万円くらいだったと思います」
- 「開腹手術。約8万円」
- 「手術して、治療費は10万円ほどでした」
- 「手術で子宮と卵巣摘出しました。治療費は保険が効いて10万円越えたと思います」
- 「その日のうちに手術、1泊入院、手術後の治療で、12万円くらいかかりました」
- 「エコー検査、レントゲン線検査や血液検査、点滴をし、症状が少し改善してから手術すると言われ即入院となり、翌日に子宮全摘手術をしました。治療費は12万円くらいでした」
- 「すぐに手術し、数日入院しました。最初の診察から全部合わせると、検査なども含めて25万円くらいかかりました」
- 「即日手術でトータル30万円弱。ゴールデン・レトリーバーで大型犬だったので」
- 「すぐ手術して入院。40万円くらい」など
犬の子宮蓄膿症の予防方法とは?
避妊手術がもっとも効果的
子宮蓄膿症のもっとも効果的な予防法は、避妊手術をすることです。出産の予定がない場合は、発情前に子宮と卵巣を摘出することで、乳腺腫瘍(にゅうせんしゅよう)など、さまざまなメス犬特有の病気の予防にもつながります。
以下の記事では、犬の避妊手術について詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
陰部からの分泌液をこまめにチェックして
避妊手術を受けない場合は、いつ発情がきていつ終わったのか記録しておき、発情期には陰部の状態をこまめにチェックすることを習慣にしましょう。発情周期や発情期間の乱れは、子宮の状態を反映していますので、異常の早期発見につながります。
また、ブラッシングやスキンシップの時間を利用し、そっと陰部にティッシュを当てて血や膿がでていないか、腫れていないかなどを見るのもよい方法です。
子宮蓄膿症はかかる原因と予防法が明確な病気です。発症リスクをよく考えて、愛犬にとってベストな選択は何なのか、しっかりと判断したいですね。
監修/石田陽子先生(石田ようこ犬と猫の歯科クリニック院長)
文/terasato
※写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
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