“パテラ”を病名だと思っている飼い主さんも多いですが、じつはパテラは膝蓋骨(ひざのお皿)を指す言葉。この膝蓋骨がはずれるのが「膝蓋骨脱臼」という病気です。じつは無症状でも進行している可能性があるのだとか。膝蓋骨脱臼について、獣医師の森 淳和先生に教えていただきました。
ひざのお皿がはずれてひざが伸ばせなくなる
ひざのお皿(膝蓋骨)は、大腿骨と脛骨こつをつなぐ膝関節にある骨です。ひざの屈伸に不可欠で、とくに伸ばす際に、大腿骨の前面にある筋肉のパワーを脛骨に伝え、地面を蹴る力に変える役割があります。膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨がはずれてひざが伸ばせなくなり、歩きにくくなる病気。内側にはずれる内方脱臼と、外側にはずれる外方脱臼があり、圧倒的に内方脱臼が多いです。
●正常な膝関節
膝蓋骨は、大腿四頭筋から脛骨につながる腱の中にあって、ひざの曲げ伸ばしに合わせて、滑車溝の上を上下に動きます。
●脱臼した膝蓋骨
イラストは、内方脱臼の状態。膝蓋骨が滑車溝からはずれると、大腿四頭筋や脛骨も引っ張られてゆがみが生じます。
小型犬はなって当たり前と思って生活しよう
膝蓋骨脱臼の多くが、膝蓋骨がおさまる滑車溝が浅い、膝蓋骨をつなぎとめる組織が弱いといった遺伝的な要因によるものです。小型犬にこの特徴をもつ犬が多く、成長とともに症状が出ます。生後5〜6カ月から見られ、1才ごろが発症のピーク。3才くらいまでは起こりやすいです。小型犬に多いものの、中型・大型犬も例外ではありません。
要注意! 生後2~3カ月で判明したら早く対処しないと歩行困難に!?
子犬期の膝蓋骨脱臼は、悪化が早いといわれています。とくに生後2~3カ月で発症し、ひざが伸ばせない場合は、放っておいてはいけません。骨が変形して歩行困難になり、手術で整復することも難しい状態に陥ることも。
●なりやすい犬種
ヨークシャー・テリア
トイ・プードル
チワワ
マルチーズ
パピヨン
ポメラニアン
柴
ゴールデン・レトリーバー
バーニーズ・マウンテン・ドッグ など
じつは進行していてO脚やX脚になっていることも
両足が同時に発症していると、症状が出ていないと勘違いすることが多いです。「歩き方に症状が出ても、両足で起こると異常だと気づきにくいのです。進行して骨が変形し、O脚やX脚になっても、後ろ姿に左右差がないので変だと思わず、症状がないと勘違いしてしまいがち」(森先生)。膝蓋骨脱臼によるO脚やX脚は、たとえ無症状に見えても基本的には手術が必要なケースです。
膝蓋骨脱臼のO脚の見た目
O脚は、膝蓋骨が内側にはずれる内方脱臼が進行したときに見られます。ひざが伸ばせないため、腰の位置が下がっています。後ろから見ると、足と足の間が開いてO字形に。
膝蓋骨脱臼のO脚の特徴
同じ犬種の犬と比べて、「ジャンプが不得意」「足が遅い」と感じたら、それは膝蓋骨脱臼によるO脚のせいかもしれません。そんな様子が気になったら、かかりつけ医に相談を。
●ジャンプが低い
●足る速度が遅い
●すぐにバテる など
軽度の対応や予防のために“ひざにやさしい生活”が大事!
●適正体重をキープする
→肥満はひざに負担をかけ発症リスクを高める
体を支えながら、ひざの曲げ伸ばしをする膝関節には、大きな負荷がかかります。肥満になると、足をひねったときにひざにかかる力が倍増したり、O脚になりやすくなったりするため、適正体重をキープするのは膝蓋骨脱臼とつきあうにも予防にも大事なことです。
●適切な運動をさせる
→ひざまわりの筋肉が支えになってはずれにくくなる効果も
「ひざのお皿がはずれないように運動を控えよう」と考えたくなりますが、それはちょっと待って! 逆に運動して筋肉がしっかり発達すると、筋肉が支えになって膝蓋骨がはずれにくくなる効果が期待できます。「小型犬でも、散歩などで体を動かし、筋肉を育てることが大事ですよ」と森先生。
●マットを敷くなど滑らない床にする
→フローリングなどの滑りやすい床は発症のきっかけになりやすい
フローリングのようなツルツルした床は、滑りやすく、歩くだけでひざに負荷がかかります。滑りやすい環境で生活しているだけで、いつの間にか膝蓋骨脱臼になっていたということも起こるほどです。滑りにくいマットを敷くなど、足が滑らない環境を整えて。
愛犬に症状がなくても、ひざにやさしい生活を心がけながら、不安な場合はかかりつけ医に相談してみてください。
お話を伺った先生/獣医師 森 淳和先生
参考/「いぬのきもち」2013年10月号『“パテラ”がわかる!』
イラスト/オーツノコ
文/伊藤亜希子