犬の脱毛といえば、毛が生え替わる換毛期が知られています。ごっそり抜けても心配いらない脱毛です。でも、たくさん抜けるのがすべて換毛期だと決めつけるのはじつは危険。今回は「抜け方」に注目してアブナイ脱毛を見きわめます。さらに「発毛が止まる」タイプの脱毛について、獣医師の平野翔子先生にお話を伺いました。
一定の時期に抜け毛が増えるのが換毛期
犬の換毛は、日照時間や気温などに影響されて起こるため、地域によって時期は異なりますが、5~7月と9~11月の年に2回が一般的です。春には冬毛から夏毛に、秋には夏毛から冬毛に替わります。しかし、年じゅう同じ室温の中で生活している室内飼いの犬では、換毛期が遅れたり、はっきりとした換毛期が見られなかったりするケースもあるとか。
そもそも毛周期があるので一年じゅう毛は抜ける!
毛には、生えて抜けるサイクル(毛周期)があるため、どの犬でも毛は抜けます。毛周期は、犬種や健康状態などの影響から個体差があって、トイ・プードルやマルチーズなど本来長毛のシングルコートの犬は毛周期が長め。そのため抜け毛が少ないという特徴が。
皮膚が見えるほどの脱毛はアブナイ!
そもそも犬の毛には、体温調節だけでなく、外部の刺激から皮膚を守る役割もあります。皮膚があらわになるほど脱毛しては、毛の役割が果たせません。「皮膚が見えるほどの脱毛」は異常事態です。また、換毛期には、体全体の毛が均等に抜けますが、病気が原因の脱毛は、一部分が極端に脱毛したり、まだらに脱毛したりするのも特徴です。
●ここをチェック!
□全身の毛が均等に抜けず、部分的に抜けていないか
□皮膚が見えるほど毛が抜けていないか
□毛ヅヤが悪くなっている、毛がごわついていないか
□脱毛以外にかゆみ、皮膚の赤み、色素沈着、ブツブツなどがないか
原因不明またはホルモン異常で「発毛が止まる」病気
●毛周期が影響を受けて新しい毛がつくられなくなる
副腎や甲状腺、生殖器から分泌されるホルモンは、毛の成長にも影響を与えるため、バランスが崩れると毛周期に異常が起こります。その結果、「休止期」に入って毛が抜けてしまい、新しい毛が生えてこなくなります。脱毛は左右対称に起こり、多くの場合、かゆみはありません。毛は、治療により生えそろってきます。
【クッシング症候群】毛の成長を抑えるホルモンの働きが高まり脱毛する
クッシング症候群は、副腎皮質機能亢進症ともいい、副腎皮質の機能が高まる(亢進)病気。副腎皮質のホルモンには、毛の成長を抑える働きがあります。そのため、毛の成長が止まってしまい脱毛が起こるのです。
<起こりやすい部位>
頭、脇腹、太ももの後ろ側など広範囲で左右対称に起こる
<発症しやすい犬>
中高齢で多く、ミニチュア・ダックスフンド、ヨークシャー・テリアなどで多い
【甲状腺機能低下症】毛の成長を促すホルモンが減って脱毛する
のどにある甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、体の代謝を調整するホルモンで、毛の成長を促す働きもあります。そのため、甲状腺機能低下症になって甲状腺ホルモンが不足すると、毛周期に異常が起こり脱毛してしまうのです。
<起こりやすい部位>
鼻やしっぽ、頭、脇腹、太ももの後ろ側などに起こる
<発症しやすい犬>
ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、トイ・プードル、ミニチュア・シュナウザー、アメリカン・コッカー・スパニエル、ポメラニアン、シェットランド・シープドッグなど
【ステロイド皮膚症】ホルモン製剤のため副作用で脱毛が起こる
皮膚病などの治療に使用されるステロイド薬。ステロイド薬は、副腎皮質ホルモン製剤とも呼ばれるホルモン製剤です。長期に使用すると、クッシング症候群と似た脱毛が起こることがあります。
<起こりやすい部位>
頭、脇腹、太ももの後ろ側など広範囲で左右対称に起こる
【性ホルモン失調】性ホルモンのバランスが崩れて脱毛する
代表的な性ホルモンに、男性ホルモンと女性ホルモンがあります。男性ホルモンは毛の成長を促し、一方の女性ホルモンは毛の成長を抑制します。精巣や卵巣などの生殖器に異常があり、ホルモンバランスが崩れると脱毛が起こります。
<起こりやすい部位>
頭、脇腹、太ももの後ろ側など広範囲で左右対称に起こる
<発症しやすい犬>
中高齢で多く、未去勢・避妊前の犬や精巣の位置が異常(陰睾)なオス
【アロペシアX】毛周期が止まって脱毛する原因不明の脱毛症
発症年齢に1~10才と幅があります。多くの場合、脱毛は首やお尻、太ももの毛から始まり、頭と四肢以外の体全体に広がります。かゆみはないことが多く、脱毛が広がっても健康状態に異常はありません。ただ、確立された治療法はなく、発毛しないままのケースも。
<起こりやすい部位>
初期は首、お尻、太ももで、最終的には頭と四肢以外は脱毛する
<発症しやすい犬>
ポメラニアンに多く、トイ・プードル、チワワなどでも
「発毛が止まる」病気をご紹介しました。犬が脱毛する病気は意外と多いといいます。ふだんと違う脱毛に気づいたら、早めにかかりつけ医に相談しましょう。
お話を伺った先生/ぬのかわ犬猫病院獣医師 平野翔子先生
参考/「いぬのきもち」2023年11月号『愛犬のその脱毛大丈夫?』
文/伊藤亜希子