犬と暮らす
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犬は柿を食べても大丈夫?あげる時の注意点3つ
柿は栄養価が高く人の健康に良いとされていますが、犬が食べてもよい食べ物なのでしょうか?柿に含まれる成分が犬に及ぼす影響、あげるときの注意点について解説します。

佐野 忠士 先生
酪農学園大学獣医学群獣医学類准教授
酪農学園大学附属動物医療センター 集中治療科診療科長
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)卒業
東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了
北里大学獣医畜産学部および同大学獣医学部勤務
日本大学生物資源科学部獣医学科勤務
●資格:獣医師/博士(獣医学)/世界的獣医心肺蘇生ガイドラインインストラクター(RECOVER インストラクター)/CCRP
●所属:日本獣医麻酔外科学会/日本獣医学会/日本獣医師会/日本動物リハビリテーション学会/動物臨床医学研究所/日本麻酔科学会/日本臨床モニター学会
●主な診療科目:麻酔科/集中治療科
●書籍:『asBOOKS チームで取り組む獣医師動物看護師のためのICU管理超入門』/『as BOOKS チームで取り組む獣医師・動物看護師のための輸液超入門』/『動物看護師のための麻酔超入門・改訂版』 など多数
犬には柿をあげてOK!成分にはどんな影響がある?
秋の風物詩である柿。柿に含まれる主な栄養の成分は、「ビタミンC、カロテン、食物繊維のペクチン、ポリフェノールの1種であるタンニン、果糖」です。人間も美肌効果があるといわれていますが、実は犬にとっても栄養を含んだよい果物なのです。これら柿の成分は、犬に一体どんな影響を与えるのでしょうか?犬に与える効果や与える際の注意点を解説していきます。
ビタミンC
ビタミンCは抗酸化作用があり、人間同様に、犬の様々な体の機能を補助する役割があります。研究ではガンの抑制効果も期待できるとされているビタミンです。人間はビタミンCを体内で合成することができませんが、犬や猫は、肝臓でグルコースからビタミンCを合成することができ、粘膜の強化、体内組織の修復、ストレスの軽減、免疫力のアップ、コラーゲン生成の補助など多くの機能や効果があります。注意点はビタミンCを大量に摂取することで軟便や下痢の原因になることです。
β-カロテン
柿にはβ-カロテンが多く含まれています。β-カロテンはビタミンAを合成する元となる成分で、ビタミンC同様、抗酸化作用など、犬の体に数多くの有益な効果があります。
犬の体内でビタミンAに変換されて、消化管や皮膚、粘膜を強くし、免疫細胞を活性化させる作用があります。
β-カロテンのビタミンAへの変換は、犬の体内(特に肝臓)での合成能力に依存します。このためβ-カロテンを多く与えることでより多く合成され効果が得られるというわけではありません。
β-カロテンの注意点は、たくさん摂取すると、肝臓に負担がかかり、ビタミンA中毒を起こす可能性があることです。しかし、犬に毎日大量に与え続けるといった事がなければ問題はありません。β-カロテンはビタミンCとの相性がとてもよいので、柿はバランスよく両方の栄養素を摂取できる果物です。
食物繊維とポリフェノール(ペクチン、タンニン)
柿に含まれるペクチンは食物繊維で、食物繊維は第6の栄養素と呼ばれています。食物繊維は水溶性と不溶性の2種類があります。柿に含まれるペクチンは成分のほとんどが水溶性の食物繊維で、水分を吸収して消化管や腸内の食べ物の移動時間を穏やかに調整する効果があります。このため糖分の吸収を抑えることで急激な血糖値の上昇を防ぎ、コレステロールの吸収を抑える作用があるのです。また食物繊維は腸内細菌の餌になるともいわれており、腸内環境を整えることで体全体の免疫機能を向上させます。
犬は肉食性かつ雑食性の動物で、大量の食物繊維は犬の消化吸収に負担がかかります。食物繊維の成分そのものも消化されにくく、栄養にもなりにくいため、過剰に与えると消化不良になる可能性があります。注意点は食物繊維を適量与えるようにすることです。
タンニンは柿の渋みとなる成分で、抗酸化作用のあるポリフェノールの1種です。組織や血管を縮める収れん作用があるため、胃の粘膜保護や下痢の改善効果があります。血中の毒素や悪玉コレステロールを減らして血流をよくする作用があり、代謝がよくなるといわれています。タンニンを多く含む柿を犬に摂取させる際の注意点は、血管の収縮作用によって腸のぜん動運動機能が低下しやすいことです。この結果便秘になる可能性があり、さらに大量に食べることで体を冷やし腸内環境のバランスを崩して便秘だけでなく下痢になる可能性もあることに注意しましょう。
果糖
収穫時期を迎えた柿は、甘みが強いのが特徴です。
エネルギーを体に供給する大切な栄養素である糖質は多糖、二糖、単糖と3つに分類されます。柿に含まれる「果糖」(フルクトース)は消化が簡単で、吸収のよい単糖類です。消化管で吸収された後、その後すぐに肝臓で代謝を受け、一部がブドウ糖に変換されます。「果糖」はその全てがエネルギー源として利用される訳ではなく、ブドウ糖に変換されたものが体内で利用されるのです。
また、ブドウ糖に変換されなかった「果糖」は、肝臓で速やかに「グリセルアルデヒド」に代謝されます。このように「果糖」は、ブドウ糖と異なり「果糖」の形では血液中にはほとんど放出されません。これは「果糖」の酸化力が強いので、生体に対する毒性がブドウ糖の何百倍も危険であることから、肝臓によって「果糖」が迅速に処理されるからです。
柿は果物の糖分である「果糖」が多く含まれるため、血糖値の上昇が心配という飼い主さんもいます。確かに獣医師から糖分を制限されている犬の場合は、与える際に慎重にならなければいけません。しかし果物から摂取する「果糖」は、食物繊維も一緒に摂取するので、糖分の吸収を抑える作用もあり、血糖値が急激に上がりにくのが特徴です。
大量に食べすぎないことは他の食材でも言えることですが、少量食べるくらいでは問題ありません。
水分
柿100gに含まれる水分量は約80g〜83g、つまり柿の約80%〜83%は水分です。みずみずしい果汁を含んだ柿は人間も美味しく感じますよね。果物や野菜には水分が多く含まれているので、果実を食べることで水分補給ができ、シニア犬や病気療養中の犬で水を十分に摂取するのが難しいような場合にも、若干量にはなりますが水分と栄養の補給に役立ちます。
犬の1日の水分摂取量は、体重の5〜7%とされています。犬が喜んで食べるからと柿で多くの水分を補おうとするのはあまりよくありません。他の栄養素や成分を急激に摂取してしまうことや、更には消化器官への負担がかかるため危険です。腸内バランスを崩して下痢になってしまう可能性が高いと言えるでしょう。
犬が柿を摂取する際の注意点としては、お庭に柿の木がある場合は、目を離したすきに犬が大量に落下した柿を食べないように気をつけることです。決して落ちた柿を片っ端から食べて歩くようなことがないようにしましょう!
効果 | 問題点 | |
---|---|---|
ビタミンC | ・抗酸化作用をもつ ・ガンの抑制効果も期待できる ・体内で合成可能 | ・消化器症状(下痢、軟便)、腎結石、鉄欠乏を引き起こす可能性がある ・必要量以上は尿で排泄される |
β-カロテン | ・ビタミンAを体内で合成する成分 ・体内で変換されたビタミンAは消化管や皮膚、粘膜を強くする | ・β-カロテンは体内の必要性に応じてビタミンAを合成するので、過剰に摂取する必要はない ・多く摂取すると肝臓に負担がかかりビタミンA中毒を起こす可能性がある |
食物繊維 (ペクチン) | ・消化管や腸内の糖分の吸収を抑えるので血糖値の急上昇を防ぐ ・コレステロールの吸収を抑える ・腸内のバランスを整える | ・過剰摂取は消化不良による下痢を引き起こす ・さらには過剰摂取による下痢に伴ってミネラルの過剰排泄を促してしまう。 |
ポリフェノール (タンニン) | ・収れん作用で胃の粘膜保護や下痢の改善効果がある ・血流をよくする作用がある | ・収れん作用で腸のぜん動運動が低下して便秘を招きやすい ・大量摂取は体を冷やし、腸内バランスを崩して下痢を引き起こす |
果糖 | ・エネルギー源になる ・消化しやすく吸収のよい単糖類 ・加工された食品よりも血糖値の上昇が緩やかである | ・摂取しすぎると肥満や糖尿病になる恐れがある ・糖分の制限がある犬に、あえて与える食材ではない |
水分 | ・体の基礎的な機能の維持や生命の維持に必要 ・果実や野菜からも水分補給を行える | ・下痢や浮腫(むくみ)を起こす ・多飲は体のどこかに異常がある場合もある。 |
適量はどれくらい?
犬に与える柿の適量については、一般的に人間が食べるときに薄く切って与える程度が適量といえるでしょう。超小型犬から超大型犬まで体重も大きさも異なりますので、一概に犬に与える柿の量を算出することは難しい部分があります。
今回は柿に含まれる水分量から犬に与える柿の適量を想定してみました。
前述でも紹介しましたが、一般的に1日に犬が必要とする水分量は体重の5%〜7%とされています。さらに1日に体重の10%以上の水を飲む状態を「多飲」といいますが、この、「水分の過剰摂取」に加え、柿に含まれる成分によってビタミンA中毒、下痢や浮腫(むくみ)を引き起こす可能性があるため、食べ過ぎないように注意しましょう。
犬に柿をあげるときの注意点3つ
犬に与える柿は渋柿でなく、甘柿を与えましょう。ただし、ここまででもお伝えしてきましたが、犬が喜んで食べるからといって与えすぎるのはよくありません。うっかりと人と同じ感覚で与えてしまうと、思わぬ問題を引き起こすこともありますので、大切な愛犬のためにも柿をあげるときの注意点を確認しておきましょう。
皮や種を取り除く
犬に柿を与える際は皮と種を取り除いてあげましょう。柿の皮は固く、犬が消化しにくい部分です。さらに果物の中でも柿の種は大きいので、小型犬の場合は種が喉や腸に詰まってしまう危険性もあるため注意してください。
薄くスライスor細かくカット
柿は木から落下して崩れるほど完熟でない場合は、硬くパリパリとした食感を味わえますが、大きくカットした柿は犬にデメリットが大きいと言えます。大きい塊のままだと、喉につまらせることや、消化が悪くなります。犬に与える際は薄くスライスするか細かくカットする、或いは吸収しやすい状態で与えたい場合はすりおろしてあげてください。
少量だけにする
どんな食べ物でも同じことが言えますが、食べ過ぎは犬の体によくありません。柿も食べすぎることで果糖が原因で肥満につながります。柿のカロリーは100gあたり60kcalです。いつものフードに加え柿を多くあげた日の食事は少し減らし、1日の摂取カロリーを調整してください。
さらには、犬によっては柿を食べることでアレルギーを引き起こす場合があります。特に初めて柿をあげる場合は、犬の体調が悪くならないかまずは少量あげて様子をみながらあげましょう。
犬に柿をあげても大丈夫と知っている飼い主さんの割合は・・・
いぬのきもち編集室で、犬を飼っている飼い主さんへ果物についてのアンケートを行ったところ、「柿は食べさせてもいいと思いますか?」とい質問に対し約半数の51.1%の方が「食べさせてもいいと思う」と回答。続いて37.6%が「食べさせてはダメだと思う」、「分からない」との回答が11.3%となりました。
以前行った「ぶどう」や「バナナ」については半数を大幅に上回る飼い主さんが「ダメかいいかを知っている」状態だったのに対し、今回の「柿」に関しては、食べさせても大丈夫!とご存知の方が半数程度、残りの方々は「食べさせていいとは思っていない」という事がわかりました。
今回の柿のように、食べてはいけないのでは?と思っていた食べ物が実は問題なかったり、逆に食べてもいいと思っていたのに犬には良くなかったり・・・という食材もあるかもしれません。
どうなのかな?と少しでも疑問に思ったら愛犬のためにもしっかり調査してからあげるようにしたいですね!
まとめ
柿は犬にとって、良い成分をたくさん含む非常にいい食べ物ですが、必ずしも必要な成分だけが含まれているのではありません。特にカロテンなどの摂取量は明確に定義されていない部分も多く、健康に良さそうだからと柿を与えすぎてしまうと、かえって体調を崩してしまう危険性もあるものです。人間も犬も食べ過ぎは禁物、健康な体作りには、バランスよく栄養を摂取することが大切です。柿の旬は1年に1度、秋の味覚を美味しく「犬に与える適量」を考えながら、一緒に楽しく食べるようにしましょう!
監修/佐野忠士先生(酪農学園大学獣医学群獣医学類准教授)
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
※まいにちのいぬのきもちアプリユーザーアンケート、回答者数744名
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