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【獣医師監修】犬に栗を与えても大丈夫。栗を食べるメリットと与え方を解説
栗は基本的には犬が食べても大丈夫です。エネルギー源になる炭水化物が多いほか、食物繊維やビタミン類も多く含まれています。ただ、散歩中に犬が落ちている栗を丸呑みする危険や、「渋皮も食べさせて大丈夫?」という心配も。犬の体に役立つ栗の栄養素や与える際の注意点を紹介します。
佐野 忠士 先生
酪農学園大学獣医学群獣医学類准教授
酪農学園大学附属動物医療センター 集中治療科診療科長
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)卒業
東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了
北里大学獣医畜産学部および同大学獣医学部勤務
日本大学生物資源科学部獣医学科勤務
●資格:獣医師/博士(獣医学)/世界的獣医心肺蘇生ガイドラインインストラクター(RECOVER インストラクター)/CCRP
●所属:日本獣医麻酔外科学会/日本獣医学会/日本獣医師会/日本動物リハビリテーション学会/動物臨床医学研究所/日本麻酔科学会/日本臨床モニター学会
●主な診療科目:麻酔科/集中治療科
●書籍:『asBOOKS チームで取り組む獣医師動物看護師のためのICU管理超入門』/『as BOOKS チームで取り組む獣医師・動物看護師のための輸液超入門』/『動物看護師のための麻酔超入門・改訂版』 など多数
犬は適量なら栗を食べても大丈夫
最近は、こだわりの栗を使ったモンブランをはじめ「甘栗」「栗饅頭」「栗羊羹」「栗ごはん」「栗きんとん」など、栗を使ったお菓子や料理がたくさんありますが、人間用に加糖・加工されているものは与えないようにしましょう。
そのまま茹でたり蒸したりするだけで、栗の甘味とほくほくした食感を楽しむことができます。
栗の主要成分である炭水化物(デンプン)は、犬が生きていくうえで必要なエネルギー源になります。さらに、糖の代謝を助けるビタミンB1、B2なども豊富に含まれています。ただし、デンプンが多い分カロリーが高いので、愛犬におやつとして与える際には1日のフードとのバランスを考え、カロリーオーバーにならないよう注意が必要です。
栗のおもな栄養素|炭水化物が約37%で高カロリー
エネルギー | 147kal |
---|---|
水分 | 58.8g |
タンパク質 | 2.8g |
脂質 | 0.5g |
炭水化物 | 36.9g |
灰分(無機質) | 1.0g |
文部科学省「食品データベース」https://fooddb.mext.go.jp/index.plより参照
犬が栗を食べるメリット|体力サポート、疲労回復、便秘の解消など
炭水化物|エネルギーの供給源
栄養学上では、消化酵素によって分解される「糖質」と、分解されない「繊維質」の総称として「炭水化物」という名が使われていますが、動物の3大栄養素のひとつとして炭水化物を挙げるときは、おもに糖質のことを指しています。
炭水化物は犬の生命の維持や活動の活力として使われるので、体力サポートや疲労回復のためにシニア犬や体力が落ちている犬に与えるのもよいかもしれません。
ただし、栗はカロリーが高く、エネルギー源として使いきれなかった糖質は脂肪となって体内に蓄積していくので、与える量には注意が必要です。主食の摂取量を阻害しない程度に抑えましょう。
食物繊維|腸内環境を整え、便秘を解消。ただし過剰摂取は逆に便秘の原因に
水溶性食物繊維には、食後の血糖値の上昇抑制やコレステロールの排出などの作用があります。一方の不溶性食物繊維には、腸の中で水分を吸って大きく膨らみ、便のカサを増して腸壁を刺激し、スムーズな排便を促す作用があります。
2種類の食物繊維によって腸内環境の改善や便秘解消が期待できるでしょう。ただし、栗は不溶性食物繊維のほうが多いので、過剰摂取すると便が大きくなり過ぎて、かえって排便しづらくなる場合もあります。栗を与える量には注意しましょう。
ビタミン|体の調子を整え、病気予防、アンチエイジング
◆ビタミンC
ビタミンCというと、みかんやりんごなど瑞々しい果物を想像する人が多いかもしれませんが、じつは栗にもビタミンCが豊富に含まれています。一般的にビタミンCは、熱に弱いといわれていますが、栗のビタミンCはデンプン質に包まれているので、茹でたり蒸したりといった加熱調理をしても損なわれにくい性質があります。
ビタミンCは、タンパク質からコラーゲンを生成するのをサポートし、毛細血管や歯、骨を健康に保つのになくてはならない栄養素です。そのほかにも、鉄分の吸収促進や解毒やホルモン代謝のサポート、抗酸化作用などが期待でき、愛犬の健康維持と老化防止に役立ってくれます。
なお、健康な犬は自分の体内でブドウ糖からビタミンCを合成することができるため、ずっと長く「犬のビタミンC摂取は必要ない」と考えられていましたが、犬にも「ビタミンC欠乏症」があることが最近の研究結果からわかってきました。健康な犬でも5歳を過ぎれば体内のビタミンC合成能力が低下すると考えられているので、シニア犬などは食べ物やサプリメントからビタミンCの補給を図ってもよいでしょう。
◆ビタミンA(βカロテン)
栗には色の濃い緑黄色野菜に多く含まれるといわれるβカロテンも豊富です。βカロテンは、犬の体内でビタミンAに変換され、正常な視力の維持や健康な皮膚・被毛の保持、粘膜や歯の健康に役立ちます。
さらに、βカロテンはビタミンAとして働くだけではなく、それ自体が持つ抗酸化作用で、有害な活性酸素を除去する作用もあり、愛犬の病気予防とアンチエイジングが期待できるでしょう。
◆ビタミンB
栗にはビタミンB1 、B6、B2などビタミンB群も含まれています。なかでも多いのが、「チアミン」と呼ばれるビタミンB1。糖質を 代謝してエネルギーに変える作用があり、疲労回復や筋肉の機能を正常に保つのにも役立ちます。
◆ビタミンE
ビタミンEには、細胞膜にダメージを与える活性酸素を除去する抗酸化作用があります。細胞を覆っている細胞膜が酸化すると、皮膚病や腎臓病、消化器疾患などの病気になりやすくなるため、ビタミンEの摂取は愛犬の健康を守り、若さを維持するのに役立つと考えられます。
ビタミンEは、体内で細胞膜を守るために働いたあと、「ビタミンEラジカル」に変わります。これは、ビタミンEとは真逆に体にとってよくない成分ですが、体内にビタミンCがあれば、また元のビタミンEへと戻ることができます。栗にはビタミンEと同時にビタミンCが含まれているので、相互作用により、よりよい効果が期待できるでしょう。
心臓病や腎臓病、尿路結石の犬は要注意
たとえば、栗に含まれるカリウムは、むくみの予防や高血圧の予防が期待できます。運動不足の犬にはよいのですが、腎臓病を患っている犬や高齢で腎臓機能が低下している犬の場合は、余分なカリウムを尿で排出しにくくなり、血液中のカリウム濃度が上がる「高カリウム血症」になる可能性があります。血液中のカリウム値が高くなると、四肢のしびれや筋力の低下、嘔吐、不整脈など体の不調をきたし、重篤な場合は命を落とす場合もあるので、注意が必要なのです。心臓病の犬も血液中にカリウムが増え過ぎるのはよくないので、気をつけましょう。
また、食物繊維を含んでいるので下痢をしている犬や、原因は明らかになっていませんが尿路結石のある犬に栗を与えるときは注意が必要です。なお、タンパク質に対して稀にアレルギー反応が現れることがあるので、まずは少量を与えてみてください。
犬に栗を与えるときの注意ポイント|柔らかく茹でて丸呑みしないようカット
与えてよい部位
茹でると表面がツルツルになるのが日本栗の特徴ですが、そのまま犬に与えると「鬼皮(外側の固い皮)」が付いたまま丸呑みしてしまうかもしれません。硬い栗が喉に詰まったら、呼吸ができなくなり窒息してしまう危険があるので、そのまま愛犬に与えるのはいけません。
また、鬼皮を剥いても、栗には「渋皮(内側の少し柔らかい皮)」があります。犬は渋皮をうまく噛み砕けず、消化不良を起こす可能性もあるので、渋皮も取り除いて実の部分のみを与えましょう。
与えるときの適量
また、犬の年齢や健康状態によっては、特定栄養素の過剰摂取につながることもあるので注意しましょう。
犬の体重目安 | 1日あたりの摂取可能目安 |
---|---|
小型(2~5kg) | 13g~25g(大0.5個~大1個) |
中型(6~15kg) | 29g~58g(大1.3個~大2.5個) |
大型(20~50kg) | 72g~143g(大3個~大7個) |
※数値は、茹でた栗の可食部(1個23g)として 算出
※数値は、茹でた栗の可食部の場合。避妊・去勢済みの犬で体重相応のおやつ(1日の総摂取カロリー目安の1割)として算出
調理方法
加熱した栗の鬼皮と渋皮を剥き、喉に詰まらないよう小さくカットしてから愛犬に与えると安心です。
なお、鬼皮や渋皮を取り除くのが面倒という場合は、市販の甘栗なら皮も剥きやすいのでおすすめです。ただし、甘栗のなかには味付けされているものもあるので、パッケージ裏の原材料をよく見て、味付けや添加物のないものを選んでください。
栗きんとんや栗スイーツなど人間用の加工品はNG!
タンパク質に免疫機能が過剰反応すると食物アレルギーに
犬は栗を食べてもOK。ただし、与える量はしっかり守って
文/村田典子
※一部写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
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