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【獣医師監修】犬の皮膚病についてのまとめ~原因や症状、治療方法、予防法など|いぬのきもち
犬の病気の中で、来院数の多いもののひとつが「皮膚病」。犬の皮膚病の原因はひとつとは限らず、原因を突き止めるのが難しい病気です。今回は皮膚病の症状、治療法、予防方法について解説します。
この記事の監修

石田 陽子 先生
石田ようこ犬と猫の歯科クリニック院長
麻布大学獣医学部獣医学科卒業
●経歴:ぬのかわ犬猫病院本院副院長/ぬのかわ犬猫病院中田分院院長 など
●資格:獣医師
●所属:日本小動物歯科研究会/比較歯科学研究会/日本獣医動物行動研究会
1. 犬の皮膚病の症状とは?

犬の皮膚は薄いため多湿・乾燥に弱い
犬は人と違い、皮膚の表皮が大変薄いのが特徴で、その薄い皮膚を保護するために被毛が生えています。表皮が薄いため温度差や湿度に敏感で、被毛のおかげで寒さには強いのですが、暑さや多湿・乾燥には弱いといわれており、ふだんの生活の中でも注意が必要です。また表皮が薄い分、人よりも皮膚に関する疾患が多いといわれています。
皮膚病にはさまざまな原因があります。ひとつの病気が複数の症状を示すこともあれば、複数の病気が同じ症状を示すこともあり、あるひとつの症状から原因の病気を突き止めるのは非常に難しいです。そのため、皮膚病の診断はその症状の経過だけでなく、さまざまな検査を組み合わせて行うことが大切です。では、おもにどのような症状が出るのでしょうか?
皮膚病の症状
おもな症状は
・脱毛
・体臭が強い
・皮膚が赤い
・体がべたついて脂っぽい
・皮膚から落ちるフケが増えた
・発疹
・患部をしきりにかく・なめる
などがありますが、多くの場合、「かゆみ」を伴います。とくに目や口のまわりや足の付け根、先端部などの皮膚が薄い場所に多く見られます。さらに皮膚の延長として外耳にもよくあらわれます。
かゆみは犬にとって大きなストレスとなり、皮膚をかきむしり症状を悪化させます。こうしたストレスや、基礎疾患、アレルギーなどは免疫機能を低下させ、それにより皮膚のバリア機能が低下すると、さまざまな部位に症状が広がることが。さらに患部を「なめる」「かく」「噛む」を繰り返すことで、二次感染を引き起こし、なかなか治らない=治療費がかかるということにもなります。
2. 犬の皮膚病の原因とは?

皮膚病の原因は大きく分けて3つ。皮膚感染症、アレルギー性のもの、その他の原因のものです。
<皮膚感染症>
病名 | 原因 | 症状 |
膿皮症(のうひしょう) | 免疫力が低下したときに常在菌が異常繁殖する | ・全身(多いのは下腹部)を伴う赤い発疹 |
皮膚糸状菌症 | 真菌(カビ)が皮膚に侵入して増殖する | ・大量のフケ・円形脱毛症 |
マラセチア皮膚炎 | マラセチアという真菌の過剰増殖による感染 | ・皮膚に炎症やべたつき・フケ・独特な悪臭・強いかゆみ・かき壊しによる脱毛 |
毛包虫症(アカラス) | ニキビダニ | ・皮膚の発赤・腫れ・脱毛 |
疥癬症(かいせんしょう) | ヒゼンダニ | ・強いかゆみ ・皮膚の柔らかい部分に分厚いフケが発生したり、かさぶたができたりする |
<アレルギー性>
すべておもな症状はかゆみや発赤、発疹になります。
病名 | 原因 | 皮膚炎の発生箇所 |
ノミアレルギー性皮膚炎 | ノミの寄生 | ・全身(多いのはお尻周り) |
アトピー性皮膚炎 | ハウスダストや食べ物によるアレルギー反応 | ・目の周りや口周り・耳・足先・脇や腹部・お尻周り。まれに背中 |
接触性皮膚炎 | 薬品、草花、シャンプーや化粧品など皮膚への刺激 | ・全身(アレルゲン物質が接触した箇所) |
食物アレルギー | アレルゲン物質 | ・口周りから顔全体・耳 |
その他
病名 | 原因 | 症状 |
脂漏症(しろうしょう) | 皮脂の分泌異常 | ・炎症とかゆみ・べたつき |
乾性脂漏症 | 皮脂の分泌異常と肌の乾燥 | ・多量の細かなフケ・かゆみ |
心因性によるもの | 精神的なストレス | ・皮膚炎・なめすぎによるただれ |
そのほかにも、腫瘍によるもの、免疫介在によるものがあります。
3.皮膚病の治療方法と治療費とは?

皮膚病はさまざまな原因により引き起こされるため、治療法も原因に応じて異なります。治療にはおもに「抗生物質」「抗真菌剤」「駆虫剤」の投与、「薬用シャンプーの使用」「かゆみを抑える外用薬の塗布や内服薬」「食事療法」などです。皮膚病によっては治療期間が長くかかる場合も。
膿皮症
薬浴、抗生物質の投与などで、ほとんどの場合は完治可能です。しかし、アレルギー性皮膚炎などの基礎疾患がある場合は、その基礎疾患を治癒できないと、再発を繰り返すことがあります。
皮膚糸状菌症
抗真菌薬による治療や、抗真菌シャンプーによって皮膚を清潔に保ちます。また、動物から人に感染することもあるため、発症している犬がいる家庭では、クッションやカーペットなどに小まめに掃除機をかける必要があります。
マラセチア皮膚炎
治療には薬用シャンプー、抗真菌薬、外用薬などが使われます。
毛包虫症
治療には駆虫薬の投与が行われます。薬浴なども有効。また、免疫力低下の原因となっている病気の治療も必要になります。
疥癬症(かいせんしょう)
治療は駆虫剤を使用しますが、薬の種類によってはコリー系の犬種やシェットランド・シープドッグに副作用があらわれるものもありますので、注意が必要です。
ノミアレルギー性皮膚炎
さまざまなノミ駆虫薬によって高い効果が期待できます。
アトピー性皮膚炎
炎症やかゆみを抑えるための薬には、ステロイドや抗ヒスタミン薬があります。新しいタイプのかゆみ止めも発売され、かゆみのコントロールはしやすくなっています。ステロイドは副作用がありますので、長期服用には注意が必要です。
そのほかには「減感作(げんかんさ)」というものがあります。これは、薄めたアレルゲンをあえて体内に入れて、そのアレルゲンに慣れさせようとする治療方法です。また皮膚のバリア機能が悪化するのは“乾燥”が原因なので、皮膚が乾燥しないように塗り薬や保湿剤を併用することもあります。犬のアレルギー性皮膚炎を悪化させた元の病気がある場合、元の病気の治療をすることによってアトピー性皮膚炎の症状が軽減することもあります。
※ただ、「減感作」は、実施している施設が多くないので、かかりつけの動物病院に相談してください。
食物アレルギー
アレルギーを引き起こしていると思われる食品を抜いていきます。自己流でやってしまうと、栄養バランスが崩れてしまうので、必ず獣医師と相談のうえで調整しましょう。アレルギー対応食は、アレルゲンの特定のみならず、アレルゲンを食生活の中から遠ざけるときにも役立ちます。なお、症状が改善するまでには1カ月以上かかるので、自己判断でフードに見切りをつけないようにしましょう。膿皮症や外耳炎を併発しているときなどは、薬浴や抗生物質、抗真菌薬などを投与して症状の改善に努めます。また症状の緩和のためにかゆみ止めや抗炎症薬が投与されることもあります。
接触性皮膚炎
犬がアレルギー反応を引き起こしていると考えられる物品を、部屋から撤去して症状の増減を注意深く観察します。その後、元の住環境に戻した際に再び症状があらわれるようでしたら、高確率でそれがアレルゲンです。ここまでわかれば、今後はその物質と接触しないよう、意識的に取り除くことができるようになります。これも食物アレルギーと同じく、必ず獣医師と相談のうえで行いましょう。薬は炎症を軽減する目的でステロイドや抗ヒスタミン薬などが一時的に投与されることもあります。
脂漏症
脱脂シャンプーを用いて週1~3回洗浄します。コールタールを含むシャンプーや二硫化セレンを含むシャンプー、およびサルファサリチル酸シャンプーが、有効です。必須脂肪酸のサプリメントが皮膚状態の改善に効果があるといわれています。膿皮症やマラセチア感染症の併発や強いかゆみが見られる場合には、内服薬の投与なども行います。
乾性脂漏症
症状が軽い場合には保湿性のあるシャンプーとリンスで週1~2回シャンプーします。フケが多い場合にはこれらを洗い流すためサリチル酸とイオウを含むシャンプーを使います。ただし、シャンプー過多による皮膚および被毛の乾燥の悪化は避けるようにしましょう。
心因性皮膚炎
皮膚炎などを起こしている場合は対症療法が行われます。ストレスの原因を特定して取り除くことが大切です。再発することも十分に考えられるため、日頃の様子をよく観察してどんなときに毛をなめたりしているか、症状が見られるようになる前に何か変化したことはないかなどを考え、原因を特定して改善を行う必要があります。行動治療を行っている動物病院に相談しましょう。
4.犬の皮膚病の予防方法とは?

犬の皮膚病といってもさまざまな種類があるので、治療と同じく予防も原因に応じて異なってきます。
おもな予防法
□ 外部寄生虫からの感染を予防する
□ 細菌や真菌からの感染を予防する
□ アレルギーの原因を探る
□ シャンプーをする
効果を上げるためには、犬の肌の状況に合わせた適切な薬用のシャンプーを選び、正しいシャンプーの仕方で使用し、必要な回数(通常、3~4週に1回)行うことが重要です。
長期になると治療費はどれくらいになる?
通院治療がメインになりますが、初診では原因特定のために検査をすることが多く、皮膚検査、血液検査、アレルゲン検査、細菌培養検査など数多くなるため、検査費用の分高くなることが予想されます。また、通常は外用薬(消毒薬、塗り薬など)や薬用シャンプーをメインとして、進行具合によって薬浴、療法食や内服薬など追加も必要となり、さらに費用がかかります。治療にかかる期間は短いと1週間ほどで、場合によっては三カ月以上かかることも。ほかの病気の併発があれば追加の治療が必要となり、治療費は、より高額になる可能性もあります。少しでも負担を減らすために、子犬のうちにペット保険に加入しておくといいでしょう。
5.愛犬が清潔な状態を保てるようにしましょう
皮膚病は再発することも多い病気です。愛犬につらい思いをさせないためにも、定期的なスキンケアや、原因となる菌などが繁殖しにくい清潔な環境を作ってあげましょう。また、梅雨の季節や換毛期になりやすい病気でもあるので、その時期はとくに注意してあげられるといいですね。
監修/石田陽子先生(石田ようこ犬と猫の歯科クリニック院長)
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
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