犬の血便には、さまざまな疾患やストレスが関係しています。この記事では、血便の種類と見分け方、原因、出たときの対応・受診するかの判断ポイント、治療・予防方法について解説。実際に愛犬の血便を経験したことのある飼い主さんの体験談もご紹介します。
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【調査】愛犬の便に血が!?飼い主さんの体験談
みなさんは、愛犬が血便をした場面に遭遇したことはありますか?
「いぬのきもちアプリ」で実施したアンケートでは、3割弱の飼い主さんが「愛犬が血便をしたことがある」と回答。血便は決して他人事ではなく、どんな犬にもそのリスクはあります。
過半数の飼い主さんが血便の対応で悩んだ経験あり
今回の調査では、愛犬が血便をしたとき「対応に悩んだ」という飼い主さんが6割以上という結果に。愛犬が急に血便をしたら、戸惑う飼い主さんが大半でしょう。もしものときに適切な対応ができるよう、犬の血便の原因や病院のかかり方について知っておくことが大切です。
飼い主さんに聞いた「愛犬の血便」体験談
ここでは、実際の飼い主さんの体験談をご紹介。愛犬の血便に遭遇したときの状況は、さまざまであることが伺えます。
- 「散歩中の便に赤いものが。びっくりして、動物病院へ向かいました」
- 「トリミングの数日後に下痢(血便)ですぐ病院へ。ストレスとの事。獣医師に危険な血便を教えていただきました」
- 「車に乗ると絶対ウンチをするのですが、血便が出たときは、最初に車の中でしたときに、何か残っている感じでした。車を走らせていると、突然キャンッ!! と聞こえてきて、後ろを見ると血便が出ていて、座席に血が付いていました。出たものを袋に入れて、すぐかかりつけの病院に行って検査をしてもらいました」
- 「以前、散歩のときに便に血が付いていたので病院に行き検査しましたが、特に問題なく犬にはよくある事との話でした。その後もたまに血便がありましたが続きはしませんでした。少し日が経ち少しだけ血便が続き気になりだしたのですが、以前よくある事と言われていたので様子をみていたら夕方から噴き出す様な嘔吐と夜に水の様な血便がでたので夜間救急病院に連れていき、急性膵炎で即入院になりました」
- 「病院へ即行きました。内臓全て検査を受け、腸の部分に悪性腫瘍がわかり手術をしました。その後数カ月の間はまずまずでしたが、容態に異変を起こしあらゆる手を尽くしましたが残念な結果になりました。担当の先生いわく、分からない事ですが血液が僅かだが漏れていたと伝えられました」
※コメントはあくまで個人の体験に基づくものです。
【症例写真あり】犬の血便の種類と見分け方
血便とは、何らかの原因によって消化管から血が出ることで、便(ウンチ)に血が混じったり、血が付着したりしている状態のこと。血便と聞くと赤い色を思い浮かべるかもしれませんが、血が出ている場所から体の外に出てくるまでに時間がかかると、血液が黒色に変化します。そのため、便と一緒に出てきた血液の色により「赤い血便」と「黒い血便」 、大きく2種類に分けられます。
赤い血便
赤い血便は、すぐに血であるとわかるような赤色の血液が便のまわりに付着している、または便に混じっているものです。赤い血便で疑われるのは大腸など肛門に比較的近い消化管や、肛門からの出血 です。血液が赤いまま出てくるのは、血液が便に付着してから体外へ排出されるまでの時間 が短いために消化などの影響をほとんど受けないからです。
肛門付近での炎症が原因と考えられる血便
腸のトラブルが原因と考えられる血便(鮮血便)
ゼリー状の粘膜に血液が少量付着している場合
便の表面に透明なゼリー状のものが混じり、そこに少量の血が付着しているケースも見られます。ゼリー状の物質の正体は腸粘膜の表面を覆う粘液や剥がれ落ちた腸粘膜で、腸の不調がない際にも、時折自然に出る場合もあるものなので、便の形やかたさがいつも通りであり、症状が続かなければ通常は問題ありません。ただし、便がゆるい場合は大腸炎の可能性があるため、続くようなら要注意です。
黒い血便(タール便)
黒い血便はタール便とも表現される、粘り気がある黒っぽい便を指します。黒い血便で疑われるのは、胃、十二指腸などの上部消化管からの出血 です。上部消化管が出血している場合 、血液 が消化管を通る際に胃酸や消化酵素の影響を受け、便として出てくるまでに黒っぽく変色するためです。
血便が出たときの対処法|元気がある場合・元気がない場合の対応、受診の目安
愛犬が血便をしたとき、すぐに受診すべきか様子をみるべきか、判断に迷うという飼い主さんも少なくありません。そこで、血便が出たときの受診の判断ポイントや必要な対応、動物病院に行く際にやるべきことをご紹介します。
血便が出たが元気はある場合:受診の目安と必要な対応
血便が出たが犬の元気があるケースのうち、便の状態が悪くなく、便に付着している血が少量であれば、まずは次の便まで様子をみてもよいでしょう。ただし、次の便のときも血便が続くようであれば、受診しましょう。また、鮮血と粘膜や粘液がともに便に混じって出ているような場合や、黒い血便が出ている場合は、その日のうちに受診したほうがよいでしょう。
様子をみる場合は、受診が必要な状態に変わらないか常に愛犬を観察してください。また、受診が必要になった場合に備えて、便をとっておきましょう。
血便が出て元気がない場合:受診の目安と必要な対応
元気がない場合は、受診が必要です。血便のほかにもおかしいところはないか様子を確認し、便を持参して獣医師へ相談しましょう。
嘔吐を伴う場合に必要な対応
血便のほかに嘔吐の症状が見られる場合は、すぐに動物病院を受診してください。
ほかにも、下記のような症状が見られる場合は、たとえ1回しか血便をしなかったとしても早急に受診しましょう。
- 嘔吐や発熱の症状がある
- 元気がなく、ぐったりとしている
- 食欲が落ちている・ゴハンを食べない
急死のリスクも!?血便を甘く見ないで
犬が血便をした途端に急死するというケースはあまり多くはないものの、血便になった原因によっては急速に症状が悪化し、最終的に死につながることはありえます。
特に、 子犬や老犬は体力や抵抗力が少ないため短時間で症状が進行します。子犬や老犬が血便をしたときにはなるべく早く動物病院へ連れて行き、診察を受けましょう。
受診時に獣医師へ伝えることチェックリスト
受診の際は、以下の項目をあらかじめ確認して獣医師に伝えるとスムーズです。
また、便を持参または写真に残しておけば、症状を理解する手がかりにもなります。血便と思われる便はなるべく捨てずに丸ごとビニール袋などに入れて、できるだけ新鮮なうちに動物病院へ持っていきましょう。
チェック項目 | あてはまるものは? |
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便の色 | |
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便の外側に付着しているもの | - 赤い血液
- ゼリー状の粘液
- 何もついていない(血液が便の中に混じっている)
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便の形状 | |
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血便の回数・頻度 | - 1日の回数は普通だが、数日続いている
- 今日初めて見られたが、1日の頻度が高い
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排便時の様子に変化がないか | - 排便の姿勢を頻繁にとるが量は出ていない
- 排便時に痛みがあるような行動をとっている
- 排便のコントロールができていない
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血便の原因|病気やストレスが引き金に
血便を引き起こす主な原因として、病気とストレスがあります。
血便の原因として疑われる病気
血便の原因になりうる主な病気は下記の通りです。疾患によって血便の特徴が異なり、便の表面に血が付着する、鮮血が出るなど、一口に血便と言ってもさまざまな症状があります。
肛門周辺の病気など
肛門周囲や肛門に近い直腸で出血のある場合は、便のまわりに赤い血が付着します。便が硬めの場合に、肛門に近い部位の直腸が硬い便で刺激され、出血を起こすことも。また頻繁ではないものの、肛門周辺の病気で血便の原因となる病気としては、「肛門狭窄」「会陰ヘルニア」「直腸脱」などが挙げられます。
出血性胃腸炎
胃や腸の炎症が進行し出血が起こる疾患で、小型犬に多いといわれています。症状が突如として現れ、急に元気がなくなる、“ラズベリージャム様”と表現される赤黒い血便、嘔吐、食欲不振などの症状が見られます。ショック症状や敗血症を引き起こし、場合によっては死に至る可能性もあるため、早急な受診が必要です。
大腸炎
大腸の粘膜が炎症を起こし、下痢や軟便、ゼリー状の粘液が便に付着するなどの症状が見られます。炎症が進んで潰瘍ができると血液が混ざり、赤色の血便 になることもあります。排便回数が増え、便が出ないのに何度もトイレに行くといった症状も見られます。
感染性腸炎
寄生虫や細菌、ウイルスの感染に伴い腸に強い炎症が起こると、下痢や血便などの症状が見られます。嘔吐や食欲不振などの症状を伴う場合も。
パルボウイルス感染症
水様性の血便とともに嘔吐の症状があるときは、パルボウイルス感染症にかかっている危険性があります。パルボウイルス感染症は子犬に多く見られ、“トマトジュース様”と表現される 赤い下痢 が見られます。死に至る危険な病気ですので、至急動物病院を受診してください。
免疫介在性腸疾患
免疫の異常などで腸に強い炎症や慢性の炎症が起きると、長期間収まらない下痢や軟便、血便がでることがあります。食欲不振や体重の低下などほかの症状を伴うことも。腸の機能の低下に伴い低タンパク血症などが起こると命に関わる場合もあるため、適切な診断と治療が必要です。
誤飲・誤食
犬が異物を飲み込んでしまった場合、その異物が消化管の粘膜を傷つけたり、異物が刺激となって炎症を起こしたりすることで出血し、血便が見られることがあります。出血を起こしている場所により、黒い血便になる場合と赤い血便になる場合があります。
中毒症状
玉ねぎや長ねぎなどを口にした場合、量によっては中毒症状を起こし、血便や血尿 、下痢、嘔吐、けいれんなどの症状が見られます。場合によっては死に至るケースもあるので、ねぎ類 は犬に与えてはいけない食材です。食べたとわかった時点ですぐに病院を受診してください。
胃十二指腸潰瘍
胃や十二指腸に潰瘍ができると、黒い血便 が出ます。これに加えて嘔吐や下痢、腹痛、食欲不振、元気消失などの症状が見られます。
ストレスが血便の原因となるケースも
ストレスが原因で血便や下痢などの症状が出ることもあります。この場合、便の量が少なくなる、便の頻度が増える、便の周囲にゼリー状の粘液が付着しているなどの変化が見られることもあります。
犬の血便の検査・治療・予防方法
犬が血便になり動物病院を受診すると、以下のような検査や治療を行うことがあります。
血便の症状があるときの検査方法
まずは、問題となる便の検査を行います。さらに症状や状態に応じて、血液検査やレントゲン検査、エコー検査などを追加で行う場合もあります。
血便の治療法
血便の原因に基づいて治療を行います。例えば、原因が寄生虫であれば駆虫薬などで治療し、細菌感染であれば抗生物質などを使って治療します。また、病気の原因によっては、腸の炎症を抑える薬を併用することも。ストレスが原因なら、ストレスを減らす対応をしながら整腸剤などを使用することもあるでしょう。
犬の体力が落ちているときは、点滴をして回復を図るなどの治療が必要です。症状が重い場合は、入院が必要になります。
自宅での注意点
獣医師の指示に従って食事や薬を与えましょう。血便の症状が見られなくなったからと、飼い主さんの判断で薬をやめるのはよくありません。また、犬が快適に過ごせるように空調管理を徹底し、元気があって運動に制限がない場合は、ストレスをためないように散歩に連れて行ってあげてもいいでしょう。
血便を予防するために
犬の血便を予防するために、ふだんのお世話でできることをご紹介します。
バランスのよい食事とストレスフリーな生活を心がける
栄 養バランスに優れた総合栄養食のドッグフードと新鮮な水を与えて、免疫力を整えましょう。水分不足は便が硬くなる原因でもあるので、飲みたいときに水が飲める環境を作ってください。また、ストレスをためないように、散歩や遊びの時間を毎日とってあげることも大切です。
動物病院で定期健診を受ける
動物病院での定期健診は、血便を引き起こす病気以外にも、さまざまな病気の早期発見につながります。成犬は年に1回、シニア犬は半年に1回を目安に定期健診を受けるようにし、予防接種やノミ・ダニ、フィラリアの予防も定期的に行いましょう。
便は健康のバロメーターです。病気が進行する前に、便の状態から変化に気が付くこともできます。日頃から愛犬の便の状態を観察するようにしておきましょう。
参考・写真/「いぬのきもち」2017年6月号『危険な固さ・色がわかる2大スケールつき 愛犬のウンチで健康チェック!』
参考/「いぬのきもち」2021年10月号『ウンチはカラダからの大切なお便りです!愛犬の健康状態が“秒”でわかる!いいウンチとわるいウンチ』
「いぬのきもち」2016年11月号『食べ物の通り道をたどれば、内臓の病気がよくわかる 犬のウンチ・オシッコができるまで』
監修/いぬのきもち相談室獣医師
文/寺井さとこ
※記事と一部写真に関連性はありませんので予めご了承ください。