犬と暮らす
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「欧米スタイル」の犬のしつけが先を行っているわけではない|連載・西川文二の「犬ってホントは」vol.70
今回は、日本と欧米の犬のしつけに関するお話。日本は遅れていて、欧米は進んでいると思ってしまうかもしれませんが、犬のしつけに関してはそうではなく、海外の情報が新しいと思う必要はありません。いつからそうなったのか、西川先生が解説します(編集部)
アメリカ人のT先生から聞く話はどれも新鮮で、日本の犬のトレーニング方法は「10年、いや20年は遅れているのでは?」、と感じ入ったものです。
JAHAの講座は日本で開催されていたわけですが、当時、勉強のために自ら海外に出向き知識やスキルを吸収するという人たちもいました。
そんな時代だからこそ私が教室を開いた1999年当時は、「欧米スタイル」というキーワードがキャッチーなものになったのです。
ただ、その海外発信のトレーニングから学ぶ内容は、2000年代半ば頃をピークに少しずつ魅力を失っていきます。
より科学的な事実が明らかに
犬は飼い主家族を群れとみなすから、いかにして犬を上位の立場にさせないか。
犬を上位にさせないためには、こうこうこうやってトレーニングをする。
私もそうした教えを受けました。
「犬はオオカミと同じ」、「オオカミはこうだから犬もこう」。
犬との関係づくり、犬のトレーニングは、オオカミに学ぶ。そうした考え方は、しかしながらその後根底から覆っていく(詳しくはコラムVol.1を)。
2000年に入り遺伝子の研究が進むに連れ、オオカミと犬は共通の祖先を持っているが、同じ存在ではない(特に行動面では大きく違う)。
不特定多数が集まっていると考えられていたオオカミの群れは、実際はそうではなく、親オオカミとその子供達で基本構成されている。
そうした新たな知見が、次々と明らかになっていったのです。
「オオカミに学ぶ」というトレーニングの拠り所が、いわばなくなってしまった。
そこで主流となっていったのが、「学習の心理学」で培われていた学習理論に基づくトレーニング方法です。
科学的な理論に国によっての違いはない
声明のなかでは、パック理論(パック理論とは、オオカミや犬の群れにはボスがいて云々という考えの元になっているもの)を犬に当てはめるのは間違い、犬のトレーニングは科学的な根拠に基づくトレーニング法(=学習理論に基づくトレーニング法)で行うべき。ということが記されています。
ある意味2000年代は「オオカミに学ぶ」という古い考えと「学習心理学に基づく」という科学的な考え方、この2つの考えが混在し主張しあっていた時期ともいえるでしょう。AVSABの声明は、それに終止符を打とうとしたわけです。
最新情報は海外から、そうした考え方がピークを迎える頃、日本では「海外基準のドッグトレーニング」をコンセプトワードに掲げたJAPDT(日本ペットドッグトレーニング協会)が発足します。
発足から数年、年次大会的なカンファレンスには海外のトレーナーを何人も呼び、それなりの盛況を博していました。ただ、そのカンファレンスも時を追うに従って、徐々に盛り上がりを欠いていきます。
国によって違うのは文化、教える内容、教え方に違いはない
「何を教えるか」、「どうやって教えるか」……この2つは「コンパニオン・ドッグ」のトレーニングを語るときに重要なポイントです。
「どう教えるか」すなわちトレーニングの方法論は、科学的な根拠をベースにした方法論に基づけば国による違いはない。
一方「何を教えるか」は国によって、文化によって大きく違う。
例えばお散歩。欧米のペット先進国では、郊外や公園お散歩はリードを外すのが普通です(それが文化)。しかし、リードを外してお散歩は、日本ではNGです。リードをつけてストレスなくお散歩ができることが、日本では重要なのです。
すなわち、教える内容が「欧米スタイル」では、日本の文化にそぐわないことになってしまうのです。
科学的な理論に基づけば、「どうやって教えるか」は世界共通、日本もその方法論においてはもはや世界から決して遅れているわけではない。
以上が、私が「欧米スタイル」というキーワードを変えた理由、ということなのです。
写真/Can! Do! Pet Dog School提供
https://cando4115.com/index.html
西川文二氏 プロフィール
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