肥満は万病のもと。愛犬の健康を守るためにも、必要に応じてダイエットを行い、適正体重を維持するよう努めましょう。今回は、犬が肥満になる原因やリスク、正しいダイエット方法や注意点について解説します。
犬の理想体型とダイエットを始める目安
そもそも犬は、どんな状態になったときにダイエットを行う必要があるのでしょうか?犬にとっての理想体重とともに、ダイエットを始める目安について見ていきましょう。
肥満と判断される犬の状態とは
犬のダイエットを始めるべきタイミングは、体重が増えすぎて肥満状態になったときです。一般的に肥満とは、過剰な脂肪が体に蓄積して、適正体重よりも15~20%以上体重が増加している状態のことを指します。
ただし、骨格や体格は犬種だけでなく個体によっても差があるため、適正体重を超過していたとしても肥満と判断されない場合があります。そんなときに役立つのが、「ボディコンディションスコア(BCS)」です。
「ボディコンディションスコア(BCS)」から見る犬の理想体型
ボディコンディションスコアとは、犬の体を見たり触ったりして肥満かどうかを判定する方法です。評価基準には5段階と9段階の2つがありますが、以下のような5段階で評価されることが多いです。
ボディコンディションスコア(BCS)
中央のBCS3が理想の体型とされているので、愛犬がBCS4・BCS5に当てはまる場合は、かかりつけ医と相談しながら、体重管理を始めたほうがよいかもしれません。
適正体重と比較するための犬の体重の量り方
愛犬が肥満かどうかを見極めるためには、適正体重と比較するために、定期的に愛犬の体重を量ることが大切です。動物病院の診察台で量ってもらうのが一番正確ですが、自宅で量るなら、飼い主さんが愛犬を抱っこして体重計にのり、その後飼い主さんの体重を引くという方法があります。
ただし、飼い主さんの体重を引く方法は大まかな数値になることが多く、小型犬だと誤差が大きくなりやすいため、10g刻みで細かく測定できる体重計を用いることをおすすめします。
犬が肥満になる原因
では、なぜ犬は肥満になってしまうのでしょうか。考えられる主な原因は以下のとおりです。
フードやおやつの与えすぎ
1日に与えるフードやおやつの量が多いと、カロリーオーバーとなり肥満の原因になります。
また、必要な栄養量の割合は、ライフステージ(年齢、肥満などの健康状態、妊娠などの生理状態)によって変わってくるため、愛犬のライフステージに合わせてフードの種類や量を見直さないと、肥満につながってしまいます。
運動不足
散歩に連れて行かない、散歩の時間が短いなど、運動量が不足していることも肥満の原因のひとつです。運動不足はストレスにもつながるので、十分注意してください。
加齢
犬は年を重ねると運動量が減り、筋肉量も落ちて基礎代謝が低下します。そのため、成長期と同じ種類や量のフードを与えていると、摂取したエネルギーを消費しきれずに太ってしまうことが考えられます。
肥満のピークは7才から10才くらいです。超高齢になると、加齢や病気が原因で逆に体重が減少してしまうこともあるため、注意が必要です。
病気
犬は甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症など、ホルモンの病気が原因で肥満になることがあります。また、肝臓病などが悪化すると腹水が溜まり、おなかが膨らんでくることがあります。
食事量や運動量が適正なのに体重が増加したり、おなかが膨らんだりしている場合は、早めに獣医師に相談しましょう。
遺伝的に太りやすい犬種も
遺伝的に太りやすい犬種もいるといわれています。例えば、ビーグルやミニチュア・ダックスフンド、ポメラニアン、パグ、ジャック・ラッセル・テリアなどの犬種は食欲旺盛な性格をしており、太りやすいホルモンの病気にもかかりやすいため、体重増加や運動不足を起こしやすいといわれています。
なお、メス犬はオス犬よりも体重が増加しやすい傾向があるとされています。また、去勢・避妊手術を受けた犬は、受けていない犬よりも肥満になる可能性が高くなるというデータも出ています。
犬の肥満が引き起こす健康トラブルとは
犬が肥満になると、さまざまな病気にかかりやすくなります。肥満が原因で引き起こされる健康トラブルとしては、以下のようなものがあげられます。
関節の病気
体重増加によって足腰への負担が大きくなり、関節炎や椎間板ヘルニアといった関節の病気を引き起こすことがあります。また、靱帯への負担も増すことで、靱帯断裂を起こすリスクも高まります。
心臓の病気
血液を送る際に心臓の負担が増すことで、心臓機能に障害を起こしやすくなります。また、シニア犬が発症しやすい、僧帽弁閉鎖不全症などの病気を悪化させるおそれもあります。
呼吸器系の病気
首の周囲についた脂肪によって気道が圧迫されることで、呼吸がしづらくなります。特に、フレンチ・ブルドッグなど生まれつき気道が狭い短頭種は、短頭種気道症候群などの呼吸器系の病気が悪化するリスクが高くなります。
さらに、呼吸がうまくできないことで体温が下がりにくくなり、熱中症にもかかりやすくなります。
そのほかにも、免疫機能の低下による感染症の発症や、尿石症のリスクが高まることも懸念されます。このように犬の肥満は、さまざまな病気を引き起こして健康寿命の短縮につながるおそれがあります。愛犬に健康で長生きしてもらうためにも、肥満にならないよう飼い主さんがしっかりと体重管理をしてあげることが大切です。
犬の正しいダイエット(体重管理)方法
犬のダイエット(体重管理)を行う際は、獣医師とよく相談したうえで目標を設定し、食事・運動の両面からアプローチしていく必要があります。
1日の食事量や食事回数を見直す
前述したように、食事やおやつの与えすぎは肥満の原因になります。犬の体重を落とすためには、カロリーオーバーになってしまっている食事内容を、適正な分量・カロリー量になるよう見直すことが大切です。
まずおやつを与えている場合はそれをやめ、そのうえで獣医師と相談して決めた量の食事を与えるようにしましょう。フードを消化吸収する際にもエネルギーを消費するので、可能であれば1日の食事回数を3~4回以上に増やすようにしてください。
また、食事時間を長くして、空腹の時間を少なくすることもダイエットには有効です。早食い防止用の食器や遊びながら食事ができる知育おもちゃを取り入れると、少ない量で満足感を得られるのでおすすめです。
1日に必要な摂取カロリー量の目安
なお、犬種や年齢によっても異なりますが、1日に必要な摂取カロリーは以下のような目安もあります。
- 体重3kgの子犬(離乳期)の場合:625kcal/日
- 体重5kgの成犬の場合:441kcal/日
- 体重10kgの成犬の場合:742kcal/日
- 体重20kgの成犬の場合:1,248kcal/日
フードのパッケージには、体重ごとの給与量の目安も記載されているので、そちらを参考にするのもおすすめです。
ダイエット中の摂取カロリー量の求め方
ただし、フードに記載されている給与量は、理想体重における目安量なので、すでに肥満になってしまっている犬にはカロリーオーバーになるおそれがあります。
肥満の程度にもよりますが、ダイエット中の摂取カロリーの目安は「70×(体重の0.75乗)×1.0~1.4」で求めることができるので、フード量を調整するときは参考にしてみてください。
体重管理用のフードを取り入れてみる
ふだん与えているフードを、体重管理専用のフードに変更する方法もあります。体重管理専用フードとは、高タンパク、低脂肪、高食物繊維といった、体重管理に適した栄養バランスが整えられたフードのことで、カロリーを抑えながらも満腹感を与えてくれます。
メーカーによってもその特徴は異なるので、獣医師と相談しながら、愛犬に合ったものを選んでみてください。
「療法食」とは異なる点に注意を!
なお、ここでいう体重管理専用のフードとは、「機能性フード」のことを指します。「機能性フード」とは、健康管理の際の気になるポイントに応じて、栄養素などが整えられたフードのことです。
機能性フードはあくまでも、適正な体重の維持や軽度の体重過剰が気になる犬の栄養に配慮したフードという位置づけになります。重度の肥満のときなどに与える、短期間で結果を出すために特殊な栄養バランスに整えられた「療法食」とは異なるので、注意しましょう。
体重管理用フードの場合も療法食の場合も、自己判断では与えず、必ず獣医師の指示を仰ぐようにしてくださいね。
運動量を見直す
ダイエットでは食事管理と並行して、運動で消費エネルギーを増やすことも大切です。足腰や呼吸器等にトラブルを抱えていない犬なら、1日2回、20分以上の軽度な運動を取り入れるようにしましょう。
いつも同じ運動内容だと犬が飽きてしまうことも考えられるので、坂道のあるコースを取り入れてみたり、引っ張り合いっこやボール遊びなど、飼い主さんとのコミュニケーションも楽しめる室内遊びを行ったりするのもおすすめです。
ただし、肥満度の高い犬の場合は、いきなり運動量を増やすと心臓や関節に負担がかかって危険なので、徐々に運動量を増やすことを心がけてください。適切な運動量がわからない場合は、獣医師に相談してみてくださいね。
プール運動を取り入れるのもひとつの手
足腰が弱っていて通常の運動が難しい犬の場合は、ハイドロセラピーと呼ばれるプール運動(施術)を取り入れるのもひとつの手です。ハイドロセラピーでは水の抵抗力・浮力を利用して体を動かすため、足腰に無理な負担をかけずにカロリーを消費することができます。
ただし、水に濡れることにストレスを感じる犬や、皮膚の健康状態が悪い犬は、ハイドロセラピーの利用は避けたほうがいいといわれています。取り入れるかどうかは、獣医師と相談したうえで検討するようにしてください。
犬のダイエット(体重管理)を行う際の注意点
犬にダイエットをさせる際は、以下の点に注意しましょう。
過度な食事制限や運動はNG
極端な食事制限や運動、急激な減量は、犬の健康を害したり、病気を悪化させたりする危険があります。
獣医師の指導のもとダイエットを行う場合は、1週間につき0.5~2%程度の体重の減少が理想とされています。それ以上のスピードで減量すると、脱水や筋肉量の減少など健康に問題が生じてしまうため、定期的に動物病院で体重測定を行い、適切なペースでダイエットできているか確認するようにしましょう。
手作りフードは栄養バランスが崩れるおそれも
手作りフードで愛犬の体重管理をしようと考える飼い主さんもいるようです。しかし、手作りフードを日常的に与える場合は、犬の栄養学に関する専門的な知識がない限り、栄養バランスが崩れてしまうおそれがあります。
愛犬の体重管理をする際は、動物病院で適切な指導を受けたうえで、愛犬の状態に合ったフードを適量与えることが大切といえます。
正しい方法でダイエットを行って愛犬の健康を守ろう!
愛犬の健康のためにも、肥満状態はできるだけ早く改善させたほうがよいですが、無理な減量は愛犬の体に負担をかけてしまうおそれがあります。ダイエットを行う際は、長期的なスケジュールで根気強く行うことを心がけましょう。
また、愛犬が肥満にならないよう、日ごろから愛犬の体重の把握や体重管理をしっかり行うようにしてくださいね。
監修/徳本一義先生(有限会社ハーモニー代表取締役)
文/宮下早希
※写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。