愛犬が急に意識を失って倒れる、体をガタガタと震わせる。それは「てんかん」という病気のサインかもしれません。そこで今回は、てんかんの原因から症状、治療法や看護方法、発作が起きたときの対処法まで、飼い主さんの体験談とあわせてご紹介します。
犬のてんかんとは?
どんな病気なの?
てんかんとは、脳の神経細胞が過剰に放電(興奮)されることで引き起こされる、脳の病気のことです。もともと、犬の脳神経細胞には興奮を伝える細胞(興奮性神経細胞)と、興奮を抑える細胞(抑制性神経細胞)があり、通常はお互いにバランスを取り合って情報を伝達しています。しかし、何らかの異常でそのバランスが乱れると突然過剰な放電を起こし、けいれん(痙攣)を伴う発作を引き起こすといわれています。
なお、詳しくは後述しますが、てんかんの症状のひとつであるけいれん発作は、すべての犬に見られる症状というわけではありません。また、低血糖が原因の低血糖性けいれんのように、てんかん以外の病気でもけいれんの症状が見られることがあります。
脳以外の原因で起こるものはてんかん発作ではなく、単にけいれん、けいれん発作、発作などと呼ばれることを覚えておくとよいでしょう。
犬のてんかんの初期症状(前兆)とは
てんかんの症状は進行度合いや犬によってあらわれ方が異なりますが、突然鼻を鳴らしながらクルクルと歩き回る、ソワソワしだす、分離不安のときのように不安そうに甘えてくる、口からよだれが垂れるといった症状は、てんかんの初期症状(前兆)と考えられます。
飼い主さんが愛犬のてんかんに気づいたきっかけは?
「いぬのきもちアプリ」で、201人の飼い主さんを対象に「てんかん」に関するアンケート調査(※)を実施し、「愛犬がてんかんと診断される前に異常だと感じた症状やきっかけは何ですか?」と質問したところ、以下のような回答が得られました。
※アンケート/2021年6月実施「いぬのきもちアプリ」内アンケート調査(回答者数 201人)
- いきなり腰を抜かして立てなくなり、嘔吐と下痢をした
- 急によだれを多量に出して、失禁とけいれんが起きた
- 四肢が突っ張って立てなくなった
- 体をガタガタと震わせていた
- 何かのどにつまらせて息ができなくなり、たおれそうな感じでヨタヨタ歩いて体も震えていた
- 寝ているときに急にガバッと起きてブルブルと震えたあと、吐いたり失禁したりすることがあった
- ゼッーゼと咳をする頻度が増え、軽い数秒の発作が起きるようになった など
犬のてんかんの主な原因は?なりやすい犬種はいる?
犬のてんかんには大きく分けて2つの原因があるとされ、原因によって以下のように分類されます。
特発性てんかん
「特発性てんかん」とは、検査上では異常が見られないのにもかかわらず、てんかん発作を周期的に起こしてしまう病気です。原因は明らかではないものの、遺伝的要素が強いと考えられており、音や光、ストレスなど外的刺激が引き金となることも。ほかにも「原発性てんかん」「真性てんかん」などと呼ぶ場合もあります。
症候性てんかん
「症候性てんかん」は、事故による頭部の外傷のほか、脳炎や脳腫瘍、水頭症などの脳の病気や奇形が原因でけいれん発作を起こす病気です。「二次性てんかん」「続発性てんかん」などと呼ばれることもあります。特発性てんかんよりも深刻な状態になることが多く、死にいたる危険性も高いとされています。
てんかんになりやすい犬種とは
ビーグルやチワワ、シェットランド・シープドッグ、ゴールデン・レトリーバー、柴などの犬種は、てんかんを起こしやすいといわれています。
しかし、実際に今回のアンケートに回答してくれた飼い主さんたちの愛犬は、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルや秋田、ラブラドール・レトリーバーなど犬種はバラバラでした。したがって特定の犬種だからと極端に悲観的になる必要はないでしょう。
てんかん発作が起きたときに見られる症状とは(症例動画つき)
てんかんの症状は、症状の出方によって「全般発作」と「部分発作」という型に分類されるほか、発作の合間(発作間歇期)や発作後(後兆)などの段階によっても分けられます。
てんかん発作のあらわれ方は犬によって異なりますが、最初は突然鼻を鳴らしながらクルクルと歩き回ったり、ソワソワするなどの前兆が見られ、その後けいれんするなどのてんかん発作を数秒~2、3分程度繰り返し、回復するといったケースが多いです。
回復後は、意識がもうろうとしたり、ぐったりしたりするほか、呼吸が荒く落ち着きなく歩き回ったり、急にご飯を食べだすなどという様子が見られるでしょう。
なお、犬のてんかん発作は、症状の出方によって「全般発作」と「部分発作」という型に分類されます。
全般発作の症状
全般発作とは脳の全体が異常に興奮している状態で起こる発作で、主に以下のような症状が見られます。
- 意識を失って倒れる(意識消失)
- 体がのけぞるように突っ張る(強直発作)
- 手足のけいれんやバタバタと足かきのような動作(遊泳運動)が続く(間代発作)
- 体の突っ張りやけいれん、足かきなどが混ざった動作を行う など
部分発作の症状
部分発作は脳の一部のみが異常に興奮しているときに起こる発作で、以下のような症状が見られます。
- 顔面や前足など、体の一部にけいれんを起こす(運動発作)
- 口をクチャクチャとさせる(チューインガム発作)
- 一点をじっと見つめる、空中を噛む、短時間だけ攻撃的になる(性格の変化)などの行動異常をする(行動発作)
- 落ち着きがなくなる、よだれを多量に垂らす など
発作の合間に見られる症状
発作が1回で終わった場合は見られませんが、発作が複数回起きたり長く続いたりすると、発作と発作の間にうまく立ち上がれない、よろめくなどのけいれんの名残のような症状が見られます。発作の不安感から鳴くこともあります。
発作後(後兆)に見られる症状
後兆は、発作から正常な状態に回復する間や発作直後のことを指し、主に以下のような症状が見られます。
- 意識がもうろうとした状態になり、ぐったりとする
- 急にご飯を食べだすなどの異常な食欲が見られる
- 痴呆のような徘徊行動を起こす
- 不整脈などの自律神経障害が起きる
- 気持ちが不安定になる など
「重積発作」や「群発発作」が見られた場合はすぐ動物病院へ!
通常のてんかん発作は長くても2~3分程度でおさまりますが、まれに5~10分以上発作が継続する「重積(じゅうせき)発作」や、短期間に何度も発作を繰り返す(24時間以内に2回以上など)「群発発作」などが起きる場合があります。
どちらも重度な発作の症状で、脳などへの後遺症のリスクが高まるほか、長く続くと命にかかわる危険性もあります。重積発作や群発発作が疑われる場合は、すぐに動物病院を受診してください。
てんかんの症例動画
以下は、実際にてんかんを発症した犬の症例動画です。動物好きなかたにはつらい映像も含まれていますが、症状など参考になるかと思います。実際に閲覧する際は十分に注意してください。
ジャック・ラッセル・テリアのてんかん発作
なお、投稿されたかたによると、こちらの動画は動物病院で説明するために撮影したもので、現在は薬により発作はおさまっているとのことです。
犬がてんかん発作を起こしたときの対処法・注意点
愛犬がてんかん発作を起こした際は、以下のようなポイントに注意して対処するようにしましょう。
犬の体に触ったり起こしたりしない
愛犬に意識がないときや錯乱状態になっているときに、むやみに手を出すと噛まれる危険性があります。発作がおさまるまでは体に触ったり、起こそうと体を揺らしたりするのを避けて静かに見守りましょう。
あわてていても大声を出さない
発作中の犬に向かって大きな声を出したり、呼びかけたりすると、脳に刺激を与えてさらに症状を悪化・継続させるおそれがあります。できるだけ刺激を与えないよう、前述したのと同様に、発作がおさまるまで静かに見守るようにしましょう。
ケガをしないようにまわりを片づける
てんかん発作を起こす場所によっては落下などの事故や、ものとの衝突でケガをするおそれがあります。発作の前兆が見られたら階段に続くドアを閉めたり、テーブルなど障害物になりそうなものを片づけたりして、周囲の安全を確保しましょう。
愛犬が一度てんかん発作を起こしたことがあるのであれば、日ごろから愛犬が過ごす場所を片づけてスペースを広く取っておき、安全性の確保に努めることが大切です。
獣医師に相談できるよう発作の様子を撮影・メモしておく
発作の様子をできるだけ明確に伝えられると、診察や治療の手助けになります。つらいかもしれませんが、発作を起こしたときは、できるだけその様子をスマートフォンなどで撮影しておきましょう。
なお、動画の撮影が難しい場合は、発作やけいれんの様子や長さ、症状が起きたときの時間帯や天気、状況などをわかる範囲でメモしておきましょう。
犬のてんかんの治療・看護方法
てんかんの検査方法
まずは、問診や身体検査、発作の様子を撮影した動画などをもとに、それが何らかの発作であるかどうかを判断します。そして、発作の原因が脳にあるのか、脳以外にあるかを調べるため、必要に応じて血液検査や神経学的検査、レントゲン検査、超音波検査などを行うことが一般的です。
これらの検査で原因が特定できない場合や、頭蓋内疾患が疑われる場合は、MRI検査や脳脊髄液検査などを実施し、その結果、とくに何も異常が発見されなかった場合は「特発性てんかん」、異常が認められた場合は「症候性てんかん」と診断します。
しかし実際のところ、MRI検査にはコストの問題や全身麻酔のリスクがあることなどから、発作以外の神経学的な異常がなく、かつ脳以外の異常が認められなかった場合は、「特発性てんかん」と仮診断して治療を始めるケースも少なくないようです。
てんかんの治療法
症候性てんかんの場合は、それぞれの症状や原因に応じて内科治療や外科治療を行います。一方、原因不明の特発性てんかんは主に、抗てんかん薬によって症状の頻度や発作の程度をコントロールし、脳へのダメージを抑える治療を行います。
抗てんかん薬による投薬治療
一般的なてんかん治療は、抗てんかん薬で発作のコントロールを行う内科的治療です。犬に用いられる主な抗てんかん薬としては、レベチラセタム、ゾニサミド、臭化カリウム、フェノバルビタール、ガバペンチン、ジアゼパムなどがあります。
どの薬が愛犬に合うかは、検査を行ったうえで獣医師と相談して決めることが大切です。
外科治療
腫瘍などが原因の場合は、外科治療でその部分を切除する治療を行う場合もあります。ただし、脳の腫瘍は部分的にも切除が難しいため、内科的治療によって発作やけいれんのコントロールを行う場合がほとんどです。
てんかん治療後の看護のポイント・注意点
愛犬のてんかん発作を重症化させないためには、治療開始後の看護を正しい方法で行うことが重要です。最低限、以下のポイントや注意点は押さえておきましょう。
処方された薬は忘れず飲ませる
抗てんかん薬はあくまでも発作をコントロールするもののため、継続もしくは生涯治療が必要になります。投薬を忘れてしまったり、発作が起きないからと飼い主さんの自己判断で減薬や断薬したりすると、大きな発作が起きて命にかかわる危険性もあります。抗てんかん薬を使用する際は、必ず獣医師の指示に従い、処方された通りの量を投薬するようにしてください。
どんなときに発作が起きたか記録をつける
前述したように、てんかん発作のなかには音やニオイ、天気など特定の環境要因が引き金になるものがあります。そういった発作はその原因となる環境要因を排除・整備するだけでも、発作を予防、軽減できる可能性があります。
日ごろから愛犬がどんなタイミングやシチュエーションで発作を起こしているのか記録しておき、発作の要因の特定・排除に努めることが大切です。
定期的に動物病院を受診する
抗てんかん薬による投薬治療では、薬の副作用が起きていないか調べたり、副作用を抑えるための血液検査や、飲んでいる薬の血中濃度の測定をして薬用量が適したものであるか定期的にモニタリングする必要などがあります。また、発作の状況や進行度合いによっては、治療法の再検討をする場合もあるので、定期的に動物病院を受診するようにしてください。
動物病院やペットタクシーの連絡先を調べておく
てんかん発作は昼夜・休日問わず、いきなり起こることが考えられます。動物病院を受診しようと思ったら休診だったなんて事態にならないためにも、かかりつけや近場の動物病院が休日や夜間、往診などに対応してくれるのかを事前に調べておきましょう。
あわせて、すぐに呼べるペットタクシーの連絡先も調べておき、いつでも見られる場所に貼って家族に情報を共有しておくことも大切ですよ。
飼い主さんに聞いた!てんかん治療や介護の体験談
最後に、同アンケートの「愛犬のてんかん治療やその後の看護で、大変だったことはありますか?」という質問で集まった、飼い主さんの体験談についてご紹介します。
- 繰り返し発作を起こすため、24時間すぐ診てもらえる病院を探したり、発作を起こしたときに対処したりするのが大変でした
- 愛犬の肛門にうまく座薬が入れられず噛まれたことやけいれんしている間は何もしてあげられないのもつらかったです
- 原因がハッキリとわからず、いつ発作が起きるかわからないのが不安です
- ひきつけやけいれんのときは抱いてはダメなので、ただただ見守ることしかできないのがつらく感じました
- 発作がひどいときは暴れてあちこち走り回ったり、体をぶつけたりがすごかったです
- 今は何とか飲めているが、最初は薬がうまく飲めなくて大変でした
- 毎月かかる治療薬の費用が結構大変です
費用や病院探しなどの負担はもちろんあるようですが、やはり愛犬の様子を見ているだけなのがつらいという声も多く見られました。
犬のてんかんは落ち着いて対処することが大切
てんかんは長く付き合っていかなければならない、愛犬にとっても飼い主さんにとっても負担が大きい病気ですが、愛犬が発作を起こしたときに冷静に対処し、きちんと計画的に治療を続けていけば、発作の頻度や負担をコントロールできるようになります。
愛犬がてんかんと診断されることで戸惑ったり、不安に思ったりすることもあるかもしれませんが、獣医師に相談しながら前向きに付き合っていくことが大切です。
なお、てんかんに関する情報やけいれん発作が見られる病気などについては、以下の記事でも詳しく解説しているので参考にしてみてください。
参考/「いぬのきもち」2017年10月号『Attention “いざというときにあわてない”ために 犬の「発作」にそなえよう! 対処法つき』
監修/石田陽子先生(石田ようこ犬と猫の歯科クリニック院長)
文/pigeon
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
※アンケート/2021年6月実施「いぬのきもちアプリ」内アンケート調査(回答者数 201人)