「犬の風邪」ともいわれるケンネルコフは、重症化すると命に関わることもある危険な病気です。そこで今回は、ケンネルコフの原因や症状、治療法、予防法などについて解説します。症例動画や症状が似ている病気もご紹介しますので、参考にしてみてくださいね。
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ケンネルコフはどんな病気?
ケンネルコフとは伝染力の強い呼吸器感染症の総称で、伝染性気管気管支炎とも呼ばれます。
主な感染経路は接触感染や飛沫感染で、感染した犬との接触や、その犬の咳やくしゃみが口や鼻を経由して体内に入ることで感染します。そのため、ペットショップや保護施設など、複数の犬が生活している場所で広がりやすい病気とされています。
犬がケンネルコフになる原因
ケンネルコフは、以下のような病原体に単独、もしくは複数(混合)感染することが原因で発症すると考えられています。
- 犬アデノウイルスⅡ型
- 犬パラインフルエンザウイルス
- 犬ジステンパーウイルス
- 犬ヘルペスウイルス
- ボルデテラ(気管支敗血症菌)
- 犬インフルエンザウイルス
- 犬コロナウイルス
- 犬レオウイルス
- マイコプラズマ など
なお、ケンネルコフは感染してから発症するまで、3~10日間の潜伏期間があるといわれています。購入時には無症状でも、ペットショップから迎え入れた犬が施設内ですでに感染している場合、自宅に迎え入れてから突然症状が発生するケースも起こりえます。
自宅に迎え入れてからケンネルコフを発症した場合は、治療費をペットショップが負担してくれる場合もあるので、事前に犬の体調をよく確認したうえで購入し、保証内容なども十分に確認しておくとよいでしょう。
どんな犬がなりやすい?
ケンネルコフは、まだ免疫力や抵抗力が低い生後6週~6カ月齢の子犬が発症しやすいといわれています。また、環境の変化などでストレスを受けている犬やシニア犬などは、免疫力や抵抗力が弱っているため、ケンネルコフを発症しやすいといえるでしょう。
ケンネルコフで見られる症状とは
主な症状は短く乾いた咳
ケンネルコフの主な症状としては、のどに何かつまったような短くかわいた咳のようなしぐさを繰り返すことが挙げられます。咳とわかりにくい場合もありますが、犬が吐きたそうなそぶりを見せたら、咳を疑ってもいいかもしれません。
咳以外に見られる症状
単独感染の場合は、咳が刺激となって食べたものを吐いたり、微熱などの症状が見られたりすることがあります。数日で自然に症状が治まることが多く、食欲が落ちたり、元気がなくなったりすることはあまりありません。
一方、混合感染を起こしている場合は、食欲不振や高熱、膿(うみ)のような鼻汁や目やになどのカゼ症状が出ることが多く、ときにはぐったりとして元気がなくなるなどの様子も見られます。重症化すると肺炎や呼吸困難を引き起こし、最悪の場合は死に至るおそれもあるので十分注意が必要です。
ケンネルコフの関連動画
以下は、「もかぱん インコのち犬ときどき飼主」さんが投稿した、迎え入れたばかりの愛犬あんちゃんが、ケンネルコフと診断されたときの動画です。処方された薬のことや、同居犬がいる場合の隔離方法など、参考になる情報が多いので、ぜひチェックしてみてください。
ケンネルコフに似た症状が見られる病気
犬がかかりやすい病気のなかには、ケンネルコフと似た症状が見られるものもあります。
犬ジステンパーウイルス感染症
犬ジステンパーウイルスの感染によって起こる病気で、とくに1才未満の子犬がかかりやすいとされています。初期症状としては高熱や下痢、肺炎などを起こしますが、進行するとけいれん発作や震えなどの神経症状を起こすことも。
ワクチンによる予防が有効な病気とされているので、定期的に接種するようにしましょう。
犬パルボウイルス感染症
犬パルボウイルスの感染によって起こる病気で、発症すると激しい嘔吐や下痢、脱水状態による衰弱などの症状が見られます。
この病気もワクチンによって予防効果が期待できるとされていますので、定期的に接種するようにしましょう。
僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)
心臓にある僧帽弁という弁がきちんと閉じなくなり、心臓の中で血液が逆流してしまう病気です。発症すると、のどにものがつかえたような咳をしたり、運動を嫌がるそぶりが見られたりします。
この病気は遺伝的な要因が強く、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルや、マルチーズなどの小型犬に多く見られる傾向が。また、シニア犬も発症しやすいとされています。
僧帽弁閉鎖不全を含めた心臓病の病気については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてみてください。
気管虚脱(きかんきょだつ)
気管虚脱とは、のどと気管支をつないでいる筒状の気管が、支えである気管軟骨の強度が失われ扁平につぶれてしまう病気です。つぶれた気管が気道を狭くしてしまうため、咳や呼吸困難などの症状が見られるほか、ガーガー、ゼーゼーといった呼吸音が聞こえるのが特徴です。
気管虚脱は、ポメラニアンやチワワ、ヨークシャー・テリアやトイ・プードルといった小型犬がなりやすいといわれています。以下の記事では気管虚脱について詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
フィラリア症
フィラリア症は、犬糸状虫(いぬしじょうちゅう)という寄生虫が蚊を介して犬に感染し、心臓や肺動脈に寄生することで起きる病気です。発症すると、ケンネルコフのようにかわいた咳が出るほか、呼吸が苦しそうな様子も見られます。
フィラリア症は定期的な薬の投与で予防できる病気ですので、犬に負担をかけないためにも、正しい方法で予防に取り組むことが重要です。以下の記事では、フィラリア症の症状について詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
ケンネルコフの治療法と注意点
症状や原因によって治療法が異なる
ケンネルコフの治療は、原因や症状に応じて抗生剤やせき止め、去痰剤などの投与を行います。場合によっては、犬の自己免疫力を上げるインターフェロンを注射することも。
また、気管支炎や肺炎などの合併症が見られる場合は、ネブライザーと呼ばれる吸入器による吸入治療を行うこともあります。
なお軽症の場合は、せきなどの症状が出ても数日~1週間程度で治まることが多いため、十分に栄養が行き届くよう食事管理を行ったうえで、自然治癒を待つケースもあるでしょう。
ケンネルコフ治療中の注意点
ケンネルコフはほかの犬へ感染してしまいます。獣医師からの許可が下りるまでは、ドッグランや散歩など、ほかの犬と接触しそうな場所に出かけるのはやめてください。また、同居犬がいる場合は部屋を分けて隔離し、ケージや食器などのグッズを消毒することも重要です。
愛犬をケンネルコフにしないための予防法
最後に、とくに犬を飼い始めのときに行いたい、3つのケンネルコフ予防法をご紹介します。
ワクチン接種をする
ケンネルコフの予防には、3種混合や5種混合、7種混合といった混合ワクチンの接種が有効とされています。ただし、前述したようにケンネルコフの病原体は数が多いため、混合ワクチンを打っていても感染することがあるので注意が必要です。
なお、混合ワクチンの接種間隔の目安は、1回目を生後8~9週目、2回目を生後12~13週目、3回目を生後15~16週目とされています。ただし、1回目のワクチン接種時期によって変わってきますので、2回目以降の接種時期やワクチンの種類については、かかりつけの動物病院に相談しましょう。
ストレスを与えない
ケンネルコフは免疫力が下がると感染しやすいので、免疫力低下の原因となるストレスはできる限り避けましょう。とくに飼い始めのときは、環境の変化からストレスを受けやすいので、徐々に家に慣していくなどの配慮が必要です。
動物病院で健康チェックしておくことも大切
前述したように、迎え入れる前にすでにケンネルコフに感染している犬も少なくないため、家での生活を始める前に、購入場所での様子の確認と、かかりつけの動物病院での健康チェックを受けることをおすすめします。飼い始める前に発見できれば早い段階から治療が進められるので、重症化を予防することもできます。
ケンネルコフは健康管理と予防が大事!
ケンネルコフは自然に症状が治まることも多いですが、油断していると重症化して命に関わる危険性があります。とくに子犬やシニア犬は症状が重くなりがちなので、ワクチン接種や日ごろの健康管理で、しっかり予防に努めましょう。
以下の記事でもケンネルコフについて詳しく解説しているので、あわせてチェックしてみてくださいね。
監修/いぬのきもち相談室獣医師
文/pigeon
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。