犬も年を重ねて老犬になると、介護が必要になるケースが出てきます。そこで今回は、犬の老化サインや、食事や散歩、トイレ、床ずれ、認知症などの介護方法について解説。便利な介護グッズや、飼い主さんからよせられた老犬介護の体験談もご紹介します。
愛犬が「老いる」とは? 老化のサイン
大型犬なら5~6才、小型犬なら7~8才ごろになると、「老犬期(シニア犬期)」と呼ばれる段階に入り、心身ともに少しずつ変化が見られるようになります。愛犬が老犬としてのステージを健康的に過ごすためにも、なるべく早く老化サインに気付き、その時期に適したケアをしてあげることが大切です。
犬の主な老化サイン
- 被毛がパサついて量が少なくなったり、白くなったりする
- 皮膚のかゆみや色素沈着が生じやすくなる
- 歯周病により歯ぐきから出血したり、口臭がひどくなったりする(歯が抜けることも)
- 聴力が低下して呼びかけになかなか気付かなくなる
- 視力が低下してよく家具などにぶつかるようになる
- ケガの回復が遅くなる
- 体力が落ちて寝て過ごす時間が増える
- トイレの失敗や昼夜逆転、夜鳴きといった症状が見られる(認知症の疑いあり)
- 散歩時にとぼとぼ歩くようになる など
愛犬に上記のような変化が見られたら、安全のためにも住環境を見直しましょう。
住環境を見直すポイント
老犬が室内でケガをする原因としては、階段で転ぶ・床で滑る・小さな段差につまずくといったケースが多いようです。そのため、この3点を中心に住環境を整えてあげるといいでしょう。
階段の整備ポイント
階段の上り下りは犬の足腰に負担がかかるので、なるべく階段を使わせないようにするのが基本です。しかし、どうしても階段の上り下りが必要になる場合は、必ず飼い主さんが介添えをし、小型犬なら抱っこをしてあげましょう。また、犬が自由に上り下りできる状態だと転倒の危険性もあるので、階段前にゲートを設置しておくと安心です。
床の整備ポイント
フローリングで滑って転んでケガをしないように、カーペットやマットなどを敷いてあげましょう。その際、毛足の長いカーペットだと、爪が引っかかってしまうこともあるので、なるべく毛足の短いものや、毛先がループになっていないものを選ぶのがポイントです。
小さな段差の整備ポイント
和室とリビングの境などにあるような1cm程度の小さな段差でも、老犬になるとつまずいてしまうことがあります。市販のスロープをつけるか、愛犬にそこを通らせないような対策をしてあげましょう。
次からは、犬の生活に欠かせない、食事・トイレ・散歩などの介護方法や、便利な介護グッズについてご紹介します。
老犬介護① 食事ケア
犬は年を重ねると、噛む力や飲み込む力が弱くなったり、足腰の筋力が低下して食べる姿勢をキープしにくくなったりするため、食事量が減ってしまうことがあります。食べる量が減ると消化機能が衰え、栄養不足になって免疫力の低下や貧血などを引き起こすおそれも。
飼い主さんは次のような工夫をしながら、愛犬がしっかりと栄養を摂取できるよう手助けしてあげましょう。
老犬の食事ケアのポイント
フード量は変えず、回数を増やす
愛犬の食べる量が減ったときは、まずは1日の食事量は変えずに、1回に与える量を減らして、食事の回数を増やしてみましょう。犬の食欲をそそるよう、フードを温めるなどして香りをたてるのもおすすめです。
フードを食べやすい形状にする
噛む力が弱くなってきたり、消化能力が落ちてきたりしているような場合は、ペースト状の介護用フードに替えることも検討してみましょう。また、今与えているフードをふやかしたり、すりつぶしたりしてあげるのもいい方法です。
食事台などを使って食べやすい高さにする
食事の際に愛犬が食べにくそうにしているときは、食事台などを使って、愛犬が食べやすい高さにフードボウルを調節してあげてください。また、足腰が弱っている場合は、滑り止めのマットを敷いたり、飼い主さんが後ろから支えたりしてあげるといいでしょう。
老犬の食事ケアに役立つグッズ
食事台
【Amazon】ペティオ(Petio)高さも角度も変えられる 食事台 犬用 3,288円(税込) ※2021年2月の記事制作時
テーブルの高さや角度を調節することで、犬の首や足腰などの負担を軽減する効果が期待できる食事台。連結して1台としての使用も、分けて2台として使用も可能です。
介護食
【Amazon】メディコート ドッグフード ライフアシスト ジェルタイプ ミルク仕立て 60g×6個(まとめ買い) 1,396円(税込) ※2021年2月の記事制作時
犬の介護経験者の実体験を参考に、老犬期や手術後などの犬の健康維持や、使いやすさに配慮して作られた介護期専用ドッグフード。スープ・ジェル・ペーストと、介護状態に応じた3タイプがあります。
以下の記事でも、老犬の食事介護に役立つグッズをご紹介していますので、あわせて参考にしてみてください。
老犬介護② 散歩サポート
老犬にとって散歩は、筋力維持やストレス発散、脳の活性化など、非常に重要な役割があります。そのため、愛犬の体力に合わせた散歩を続けられるように、サポートしてあげることが大切です。
老犬の散歩サポートのポイント
愛犬のペースに合わせて歩く
散歩のサポートをするときは、愛犬のペースに合わせて歩くのが基本です。そして、愛犬がよろけたときはすぐに抱っこをするのではなく、一休みさせて、再び歩き出させるようにしましょう。
愛犬が尻もちをついてしまうときは、後ろに回り込んで腰を支えて、上に持ち上げます。何度もよろけてしまう場合は、腰を支えて歩きやすいように補助器具などを活用し、サポートしてあげてください。
犬用車いすを活用してみる
後ろ足が麻痺するなどして歩くのが困難になってしまった場合は、犬用車いすを活用してみましょう。車いすを支えにして自力で歩くことで、脚力の低下を遅らせる効果も期待できます。
犬用カートに乗せて散歩するだけでも◎
支えて歩くのが難しいときは、犬用カートなどに乗せて、好きな場所まで連れていってあげるのもいい方法です。これだけでも、犬にとっては楽しい散歩になることがあります。
なお、老犬は聴力や視力の衰えでも散歩が難しくなることもあるので、その場合は、静かで障害物の少ない道を選んで散歩しましょう。
老犬の散歩サポートに役立つグッズ
補助ハーネス
【Amazon】ペティオ(Petio)老犬介護用 歩行補助ハーネス 後足用 中型犬用 2L 2,773円(税込) ※2021年2月の記事制作時
犬の足腰の筋力が低下したときに役立つ、歩行補助ハーネス。ワンタッチバックルで着脱も簡単で、犬に負担のかかりにくい軽量素材を使用しています。
犬用車いす
【Amazon】小型犬用2輪歩行器 車いす Cタイプ 18,000円(税込) ※2021年2月の記事制作時
アルミニウムを主材料にした、軽量タイプの犬用車いす。下半身をタイヤで支えているので、歩行が楽になるでしょう。
下記の記事でも散歩のサポートグッズをご紹介しているので、参考にしてみてくださいね。
老犬介護③ 排泄(トイレ)ケア
老化が進むと、肛門の筋力が弱くなったり、膀胱の機能が衰えたりするため、排泄のコントロールがきかず、粗相(そそう)や尿漏れを起こすことがあります。排泄のコントロールがうまくできないことは、犬にとってストレスの原因になるケースもあるので、しっかりとケアしてあげましょう。
老犬の排泄ケアのポイント
トイレ環境を整える
老犬になってトイレの失敗が増えたら、トイレを複数の場所に設置したり、寝床の近くに置いたりして、失敗しにくいトイレ環境を整えてあげましょう。トイレの位置は変えずにアクセスしやすくしたり、寝床をトイレの近くに移動してもよいでしょう。
排泄姿勢の補助をする
排泄中にうまく立てなくなった場合は、腰を支えて排泄の姿勢の補助をしてあげてください。粗相の回数が増えたら、犬用おむつを使用すると安心でしょう。ただし、おむつをすると蒸れやすくなるので、こまめに取り替えてあげることが大切です。
老犬の排泄ケアに役立つグッズ
犬用おむつ
【Amazon】ユニ・チャーム ペット用紙オムツ Sサイズ 小型犬 30枚 4,400円(税込) ※2021年2月の記事制作時
パワフル吸収体がオシッコを瞬時に吸収してくれる、介護・おもらし・生理用のペット用紙おむつ。伸び縮みするウエストギャザーが体にフィットするので、動いてもずれにくい構造をしています。
ペットシーツ
【Amazon】アイリスオーヤマ 超吸収ウルトラクリーンペットシーツ 超厚型 ワイド 42枚入×2個(まとめ買い) 3,748円(税込) ※2021年2月の記事制作時
抗菌・消臭ポリマーがオシッコをしっかり吸収してくれる、超厚型タイプのペットシーツ。サラサラシートなので、足ぬれを防止します。
犬のトイレの介護については、下記の記事も参考にしてみてくださいね。
老犬介護④ 寝たきり・床ずれケア
老犬になって筋肉が衰え、歩くことを嫌がるようになると、次第に立ち上がれなくなり、寝たきりになることがあります。そのため、散歩のサポートでもお話ししましたが、老犬になって歩く力が弱くなっても、手で支えたり、介護用ハーネスなどを使ったりしながら、少しでも歩かせることが大切です。
それでも愛犬が寝たきりになってしまった場合は、食事や排泄などの介護に加え、床ずれ(褥瘡‐じょくそう‐)の予防とケアを行いましょう。
老犬の寝たきり・床ずれケアのポイント
シリンジなどを使って流動食を与える
自力で食事ができなくなったら、シリンジなどを使って流動食を与えましょう。その際、あごにタオルをあてて顔を支えながら、口の端から少しずつゆっくりと流し込みます。
犬の口を上に向けて勢いよく流動食を流し込むと、誤嚥(ごえん)するおそれがあるので注意してください。
排泄介助をする
自力で排泄するのが難しくなった場合は、下腹部をさすって刺激し、オシッコを出してあげましょう。オシッコがなかなか出ないときは、膀胱のある部分をやさしく両手で挟んで、お尻側に押して圧迫してみてください。
ウンチの場合は、しっぽを持ち上げて肛門を囲む筋肉を手で軽くもみ、肛門付近の筋肉を刺激すると出やすくなります。ただし、このような介護は初めのうちは難しいので、動物病院で指導してもらうようにしましょう。
床ずれ予防マットなどを使って体圧を分散させる
床ずれを予防するためには、体を清潔にして、頰や肩、腰、足などの骨が出っ張ったところと寝床が接する部分の圧迫を、できる限り減らしてあげるのがポイントです。その際、低反発マットやクッションなどの床ずれ防止グッズを使用するのがおすすめ。圧迫が少ない寝床を作って、2~3時間おきに寝返りをさせてあげましょう。
老犬の床ずれケアに役立つグッズ
床ずれ予防マット
【Amazon】ペティオ (Petio) ずっとね 床ずれ予防ベッド 中型犬用 5,700円(税込) ※2021年2月の記事制作時
2層構造のウレタンにより床ずれを予防するマット。抗菌・アンモニア消臭加工が施されたマットタオルつきで、室内の移動や寝返り補助に便利な持ち手もついています。
床ずれ予防クッション
【Amazon】ペティオ (Petio) Zuttone 厚みが調節できるやさしいビーズクッション ドーナツ型 小 1,060円(税込) ※2021年2月の記事制作時
体圧分散するマイクロビーズを使用した、ペット用のクッション。ビーズの出し入れが可能なので、部位に合わせて厚みを調節できます。
寝たきりになった犬の介護については、以下の記事も参考にしてください。
老犬介護⑤ 認知症・夜鳴き対策
老犬介護のなかで、大きな問題になることもある認知症や夜鳴き。愛犬に次のような症状が見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。
認知症の疑いのある症状
- 昼夜逆転、夜鳴き・遠吠えをする
- トイレを間違えたり、寝たまま排泄したりするなど、トイレの失敗が増えた
- 狭い場所にもぐりこむ、同じ方向に旋回する
- 名前を呼ばれても反応しない
- 食欲がなくなったり、異常に増えたりする など
認知症・夜鳴き対策として飼い主さんにできること
認知症は、「治せる」病気ではありません。しかし、以下のような工夫をすることで愛犬の脳に刺激を与え、症状を少し落ち着かせることができるケースも見られます。
- 体内時計のリセット効果がある日光浴をさせる
- なるべく昼間に起こしておくことで昼夜逆転を予防する
- 積極的に散歩に出かけたり、おもちゃで遊んだりすることにより、筋肉の衰えを防ぐ
- マッサージ、ボディケアなどのスキンシップをとり、こまめに声をかけてあげる など
犬の認知症については、以下の記事も参考にしてみてください。
飼い主さんに聞いた! 愛犬の介護体験談
アンケートで愛犬の介護で大変だったことについて質問したところ、上のような結果になりました。ここでは、飼い主さんからよせられたコメントを、一部ご紹介します。
トイレの介護で大変だったこと
「最初のころはトイレのタイミングがわからなかったから、あちこちでしてしまったり、ウンチも夜中にして動き回っていたので、起きたらウンチまみれになったりしたこともありました。今ではプールにペットシーツを敷いて、その上に厚めのマットを敷きやっと落ち着きました」
(ミックス・雑種/ももちゃんの飼い主さん)
「オシッコがトイレに間に合わず、そこら辺が湖のようになっているときがあるが、いてくれるだけでうれしいので介護も頑張れる」
(パグ/きゅうちゃんの飼い主さん)
「(認知症になって)トイレの場所を忘れてしまったのか、あっちこっちで大も小もしてしまう。夜中に大便をして踏みながら歩いてしまう。ニオイで気がついて夜中に足を洗ったり始末したりするのは大変。自分や犬の命の営みを目の当たりにして、愛犬から教えられることが多いとつくづく感じた」
(柴/ほくとちゃんの飼い主さん)
食事の介護で大変だったこと
「食が細くなり、とにかく食べてほしいという気持ちでいろいろなものを試しました。足が立たなくなったのですが、痩せて体重が軽くなったとはいえ大型犬なので排泄のために抱えたり、床ずれ防止のために体勢を変えたり……私が腰を痛めました。毎日病院で点滴していたので、体力面でも金銭面でも大変でした」
(ラブラドール・レトリーバー/ラブちゃんの飼い主さん)
「食欲が落ちたので、とにかく何でもいいから口に入れてほしいと、離乳食を作ったり注射器であげたりとできることをした」
(ダックスフンド/レオちゃんの飼い主さん)
そのほかの介護で大変だったこと
「大型犬なので、立たせたり向きを変えたりするのに力がいること。病院に運ぶのも大変です」
(秋田犬/隼人ちゃんの飼い主さん)
「預かってくれるペットホテルがなかなかないので、1泊ですら家を空けられない」
(チワワ/Mariaちゃんの飼い主さん)
「歩きたいのに立てないことがつらく、鳴き続ける愛犬をただ抱きしめ、声をかけてあげることしかできないこと」
(チワワ/バティちゃんの飼い主さん)
「トリミングを受けてくれるところがなかなかない」
(プードル/クロちゃんの飼い主さん)
「毎日の病院通い」
(ヨークシャー・テリア/パーシーちゃんの飼い主さん)
「犬も人も同じです。床ずれができたり、食事や排泄の介助をしたり、24時間目が離せません」
(ミックス・雑種/くうちゃんの飼い主さん)
【介護に疲れたあなたへ】シニア犬との幸せな生活を送るために
アンケートに回答してくださった飼い主さんのなかには、愛犬の介護について大変なことはあるとしながらも、以下のように前向きにとらえているかたも多くいました。
「まだ過去形ではなく現在進行形なのでいろいろあるとは思いますが、一層かわいさが増しました」
(パピヨン/蘭丸ちゃんの飼い主さん)
「愛犬に尽くす時間が増えてとても幸せ」
(チワワ/りんちゃんの飼い主さん)
「人同様、病気もするし年齢も重ねることを飼い始めたときから認識して、いざというときに慌てなくていい覚悟をすることが大切。最近は、ペットの介護グッズも増えたので、人の負担は軽くなってきていると思います」
(ゴールデン・レトリーバー/花ちゃんの飼い主さん)
「最初は何でも大変だったけど、愛情があれば乗りきれる」
(ダックスフンド/ケンちゃんの飼い主さん)
「大変と考えるより、世話がかかるということは子犬と同じ、とにかくかわいい。しぐさも子犬っぽいときがある」
(ミックス・雑種/ケイザブローちゃんの飼い主さん)
このように、犬の介護に対するとらえ方や感じ方は、愛犬の状況や体格、飼い主さんの置かれている環境によっても変わってきます。もしも今、愛犬の介護で「ちょっと疲れたな」と感じているなら、「老犬介護施設」を選択肢のひとつとして考えてみてはいかがでしょうか。
老犬介護施設とは?
施設の規模はさまざまですが、老犬や介護が必要な犬を一時的(または長期)に預かり、食事やトイレのお世話、散歩などの必要なケアをしてくれます。愛犬を預けることに対して罪悪感をもってしまうかもしれませんが、無理に飼い主さん一人で介護を続けるよりも、専門的な知識のあるスタッフが常に管理してくれることで、愛犬が安全で快適に過ごすことができ、飼い主さんの負担も軽減されるというメリットがあります。また、相談相手ができる点も、飼い主さんにとってはプラスになることがあるでしょう。
とはいえ、実際に預けるとなると、費用や自宅からの距離といった問題もでてきますので、「ひとつの選択肢」として覚えておいてください。なお、大切な愛犬を預ける場所なので、もし利用するときは、飼い主さんご自身が施設を訪問して、よく確認してから決めることが大切ですよ。
愛犬に介護が必要になった――。それは飼い主さんにとって、つらい出来事かもしれません。しかし、それだけ長く一緒に暮らし、ともに人生を歩んできた証でもあります。若いころとは違う穏やかな表情や、ゆったりとした動きなど、老犬ならではの魅力を見つけながら、どんな形でも前向きに取り組んでいきたいものですね。
参考/「いぬのきもち」2018年2月号『後悔したくないから……!介護から葬儀まで――最後まで「愛する」ということ。』
監修/今井巡先生(相模原プリモ動物医療センター第2病院院長)
文/ハセベサチコ
※写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。