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【獣医師監修】老犬の介護 住環境の見直しや、役立つグッズ、体験談も
今回は、犬の介護方法や注意点、介護グッズについて、アンケートで聞いた飼い主さんの介護体験談を交えながらご紹介します。老犬はもちろん、ケガや病気などによって介護が必要になってしまった犬の飼い主さんの参考になれば幸いです。
この記事の監修

今井 巡 先生
相模原プリモ動物医療センター第2病院院長
日本大学生物資源科学部獣医学科卒業
●資格:獣医師
●所属:日本大学動物病院整形外科専科
手術実績:664件(2017年医療センター実績)
手術実施症例:各種骨折症例、頸部椎間板ヘルニア(ベントラルスロット)、腰部椎間板ヘルニア、椎体固定他
●主な診療科目:一般診療(外科・内科)、整形外科、神経外科
愛犬が「老いる」とはどういうこと?

大型犬なら5~6才、小型犬なら7~8才ごろから、心身ともに少しずつ変化が出てきます。老犬としてのステージを健康的に迎えるためにも、愛犬の老化のサインに気付き、その時期に適した健康管理をしていきましょう。
犬のおもな老化のサイン
- 被毛がパサついて量が少なくなったり、白くなったりする
- 皮膚のかゆみや色素沈着が生じやすくなる
- 歯周病により、出血したり口臭がひどくなったりする/歯が抜ける
- 聴力の低下の影響で、呼びかけになかなか気付かなくなる
- 視力の低下の影響で、よく家具などにぶつかるようになる
- 白内障によって黒目の奥が白くなる
- 老化により免疫力が下がり、体調不良を起こしやすくなる
- ケガの回復が遅くなる
- 体力が落ちて寝て過ごす時間が増える
- 認知症によるトイレの失敗/昼夜の逆転/夜鳴き
- 散歩時にとぼとぼ歩行するようになる など
愛犬に上記のような変化が見られたら、住環境を見直すことが大切です。愛犬の介護経験者を対象にしたアンケート(以下、アンケート)では、全体の約60%の飼い主さんが、『住環境の整備』を最初に行ったと回答しています。
住環境を見直すポイント
老犬が室内でケガをする原因には、階段で転ぶ、床で滑る、小さな段差につまずく――。このようなケースが多いそうです。そのため、この3カ所を中心に住環境を整備するとよいでしょう。
・階段の整備ポイント
なるべく階段を使わせないようにするのがベターですが、どうしても階段の上り下りが必要になる場合は、必ず飼い主さんが介添えをし、小型犬なら抱っこをしてあげましょう。また、犬が自由に上り下りできる状態だと、転倒の危険性があるので、あらかじめゲートを設置しておくと安心です。
・床の整備ポイント
床で転んでケガをしないように、カーペットやマットなどを敷いてあげましょう。その際、毛足の長いカーペットだと、爪が引っかかってしまうこともあるので、なるべく毛足の短い、毛先がループになっていないものを選ぶのがポイントです。
・小さな段差の整備ポイント
和室とリビングの境などにあるような1cm程度の小さな段差でも、老犬になるとつまずいてしまうことがあります。市販のスロープをつけるか、愛犬にそこを通らせないような対策をするとよいでしょう。
いぬのきもち WEB MAGAZINE「犬の老化サインが現れやすい3つの年齢があった」
いぬのきもち WEB MAGAZINE「愛犬もそろそろシニア…そんなとき見直したい家の3大危険ポイント」
老犬介護の方法

ではここで、犬の生活に欠かせない、食事・トイレ・散歩の基本的な介護方法についてご紹介します。
食事の介護
愛犬の食が細くなったら、まずは1日の量は変えずに、1回に与える量を減らして回数を増やします。それでも残すようなら、食欲をそそるようにフードを温めて香りをたてる、消化吸収のよいフードに変えるなど工夫をしてみてください。
噛む力が弱くなってきた場合は、フードをふやかす、すりつぶす、ペースト状の介護用フードに変えるなどすると食べやすくなるでしょう。また、愛犬が食べにくそうな姿勢になっているときは、食べやすい高さにフードボウルを調節するとよいでしょう。足腰が弱ると、食べる気はあってもなかなか食べられず、結果、食欲が落ちてしまうケースもあります。この場合は、滑り止めのマットを敷いたり、飼い主さんが後ろから支えてあげたりするとよいでしょう。
トイレの介護
トイレに間に合わないことが増えた場合は、いつも休んでいる場所や寝床の近くに、トイレを移動してあげましょう。また、トイレを複数設置したり、サークルなどで区切った中に愛犬の居場所を作り、ペットシートを敷き詰めてどこに排泄しても問題がないようにしたりするのもよい方法です。
排泄中にうまく立てなくなった場合は、腰を支えて排泄の姿勢の補助をしてあげましょう。おもらしが目立つようになったら、犬用おむつを使用すると安心です。この場合、蒸れやすいので、こまめに取り替えてあげることが大切です。
そして、自力で排泄するのが難しくなったら、オシッコの場合は下腹部をさすって刺激し、なかなか出ないときは、膀胱のあるところをやさしく両手で挟んでお尻側に押し、圧迫します。ウンチの場合は、しっぽを持ち上げて肛門を囲む筋肉を手で軽くもみ、肛門付近の筋肉を刺激すると出やすくなります。ただし、このような介護は初めのうちは難しいので、動物病院で指導してもらうとよいでしょう。
散歩(運動)の介護
散歩は筋力を維持したり脳が活性化されるなど、老犬の健康維持には欠かせません。愛犬の体力に合わせた散歩を続けられるようにサポートしましょう。基本的には、愛犬のペースに合わせて歩くようにし、よろけてもすぐに抱っこをするのではなく、一休みさせて、再び歩き出せるようにすることが大切です。尻もちをついてしまうときは、後ろに回り込んで腰を支えて上に持ち上げてあげましょう。よろける様子が続くなら、腰を支えて歩きやすいように補助器具なども活用し、サポートしてください。
支えて歩くのが難しいようなら、犬用カートなどに乗せて、好きな場所まで連れていってあげるとよいでしょう。これだけでも、犬にとっては楽しい散歩になることがあります。また、老犬は聴力や視力の衰えでも散歩が難しくなることがあります。この場合は、静かで障害物の少ない道を選んであげるのがポイントです。
いぬのきもち WEB MAGAZINE「老犬の介護の仕方と心構え~食事、排泄、散歩、夜鳴き、寝たきり、介護施設、介護疲れ」
犬の介護に役立つグッズ

アンケートでは、愛犬の介護で役立ったグッズについて質問し、以下のような結果が明らかになりました。
愛犬の介護で役に立ったグッズとは?

グラフを見るとわかるように、「犬用おむつ」がもっとも役立った介護グッズだということがわかりました。また、「その他」と回答した飼い主さんの中には、「吸収性の高いトイレシーツ」や「おむつカバー」などトイレのお世話に関する回答が多く見られました。ここでは、回答数が多かった介護グッズの特徴などについて見ていきましょう。
犬用おむつ
紙おむつが主流です。愛犬の体の大きさに合ったものを選び、正しい方法ではかせてあげることで漏れを予防できるでしょう。
食事用テーブル/高さのあるフードボウル
飲み込む力が弱くなった場合、低いフードボウルだと食べにくく、前肢や首への負担がかかります。そのときに便利なのが、食事用テーブル(台)や高さのあるフードボウルです。雑誌などを積み重ねて高さを調整したりするという手もありますが、汚れやすいので長い目で見るとテーブルやフードボウルを購入した方が楽かもしれません。
床ずれ予防マット
「床ずれ(褥瘡‐じょくそう‐)」を予防するためには、床ずれになりやすい頬や肩、腰、前足、後ろ足など骨が出っ張っている部位と、寝床との圧迫を最大限減らしてあげることが重要です。そのときに役立つのが「床ずれ予防マット」です。低反発タイプや、やわらかい素材を使用したものなどさまざまな商品が販売されています。
介護用ドッグフード/流動食
愛犬の食欲や病気、飲み込む力に合わせて食事内容を変更することがあります。ドライタイプの介護用フードもありますが、セミモイストやウェットタイプ、ほとんど食事がとれない場合は、シリンジポンプなどを使って与える、流動食に切り替える場合も。いずれも獣医師とよく相談することが大切です。
ペット用カート/歩行補助ハーネス
足腰が弱ってきた場合は歩行補助ハーネスが、ほとんど歩くことが難しくなったときはペット用カートが便利です。また、椎間板ヘルニアになってしまった場合などは、犬用車いすが役立つことも。
いぬのきもち WEB MAGAZINE「知っておきたい愛犬の介護に役立つ犬用グッズと介護の心得」
飼い主さんに聞いた!愛犬の介護体験談

愛犬の介護が始まると、多くの飼い主さんがさまざまなことに戸惑い、不安になるでしょう。ここでは、アンケートで聞いた、飼い主さんの介護体験談を一部ご紹介します。
愛犬の介護で大変だったことについて

愛犬の介護でどんなことが大変だったかを質問したところ、上のグラフのような結果になりました。以下は、飼い主さんのコメントです。
トイレのお世話について
「最初の頃はトイレのタイミングが分からなかったから、あちこちでしてしまったり、ウンチも夜中にして動き回っていたので、起きたらウンチまみれになったりしたこともありました。今ではプールにペットシーツを敷いて、その上に厚めのマットを敷きやっと落ち着きました」
(ミックス・雑種/ももちゃんの飼い主さん)
「オシッコがトイレに間に合わず、そこら辺が湖のようになっているときがあるが、いてくれるだけで嬉しいので介護も頑張れる」
(パグ/きゅうちゃんの飼い主さん)
「(認知症になって)トイレの場所を忘れてしまったのか、あっちこっちで大も小もしてしまう。夜中に大便をして踏みながら歩いてしまう。ニオイで気がついて夜中に足を洗ったり始末したりするのは大変。自分やワンコの命の営みを目の当たりにして、愛犬から教えられることが多いとつくづく感じた」
(柴/ほくとちゃんの飼い主さん)
食事のお世話について
「食が細くなり、とにかく食べて欲しいという気持ちでいろいろなものを試しました。脚が立たなくなったのですが、痩せて体重が軽くなったとはいえ大型犬なので排泄のために抱えたり、床ずれ防止のために体勢を変えたり……私が腰を痛めました。毎日病院で点滴していたので、体力面でも金銭面でも大変でした」
(ラブラドール・レトリーバー/ラブちゃんの飼い主さん)
「食欲が落ちたので、とにかく何でもいいから口に入れて欲しいと、離乳食を作ったり注射器であげたりとできることをした」
(ダックスフンド/レオちゃんの飼い主さん)
そのほかのお世話について
「大型犬なので、立たせたり向きを変えたりするのに力がいること。病院に運ぶのも大変です」
(秋田犬/隼人ちゃんの飼い主さん)
「預かってくれるペットホテルがなかなかないので、1泊ですら家を空けられない」
(チワワ/Mariaちゃんの飼い主さん)
「歩きたいのに立てないことが辛く、鳴き続ける愛犬をただ抱きしめ、声をかけてあげることしかできないこと」
(チワワ/バティちゃんの飼い主さん)
「トリミングを受けてくれるところがなかなかない」
(プードル/クロちゃんの飼い主さん)
「毎日の病院通い」
(ヨークシャー・テリア/パーシーちゃんの飼い主さん)
「犬も人も同じです。床ずれができたり、食事や排泄の介助をしたり、24時間目が離せません」
(ミックス・雑種/くうちゃんの飼い主さん)
長年ともに歩んできた証、自信をもって前向きに介護に取り組もう

飼い主さんの中には、大変なことはあるとしながらも、以下のように前向きとらえている方も多くいました。
「まだ過去形ではなく現在進行形なのでいろいろあるとは思いますが、一層可愛さが増しました」
(パピヨン/蘭丸ちゃんの飼い主さん)
「愛犬に尽くす時間が増えてとても幸せ」
(チワワ/りんちゃんの飼い主さん)
「人同様、病気もするし年齢も重ねることを飼い始めたときから認識して、いざというときに慌てなくていい覚悟をすることが大切。最近は、ペットの介護グッズも増えたので、人の負担は軽くなってきていると思います」
(ゴールデン・レトリーバー/花ちゃんの飼い主さん)
「最初は、何でも大変だったけど、愛情があれば乗りきれる」
(ダックスフンド/ケンちゃんの飼い主さん)
「大変と考えるより、世話がかかるということは子犬と同じ、とにかくかわいい。仕草も子犬っぽいときがある」
(ミックス・雑種/ケイザブローちゃんの飼い主さん)
このように、犬の介護に対するとらえ方や感じ方は、愛犬の状況や体格、飼い主さんの置かれている環境によっても変わってきます。もしも今、愛犬の介護で「ちょっと疲れたな」と感じているなら、「シニア犬介護施設」を選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。
シニア犬介護施設とは?
シニア犬介護施設の規模はさまざまですが、老犬や介護が必要な犬を一時的(または長期)に預かり、食事やトイレのお世話、散歩などの必要なケアをしてくれます。愛犬を預けることに対して罪悪感をもってしまうかもしれませんが、無理に飼い主さん一人で介護を続けるよりも、専門的な知識のあるスタッフが常に管理してくれることで、愛犬が安全で快適に過ごせ、飼い主さんの負担も軽減されるというメリットがあります。また、相談相手ができることも飼い主さんにとってはプラスになるかもしれませんね。
とはいえ、実際に預けるとなると、経済面や距離などの問題も多いと思いますので、「一つの選択肢」として覚えておいてください。なお、大切な愛犬を預ける場所なので、もし利用するときは、飼い主さんご自身が施設を訪問して、ご自身の目でよく確認してから決めることが大切ですよ。
愛犬に介護が必要になった――。それは飼い主さんにとって、つらい出来事かもしれません。しかし、それだけ長く一緒に暮らし、ともに人生を歩んできた証でもあります。若いころとは違う穏やかな表情や、ゆったりとした動きなど、老犬ならではの魅力を見つけながら、どんな形でも前向きに取り組んでいきたいものですね。
参考/「いぬのきもち」2018年2月号『後悔したくないから……!介護から葬儀まで――最後まで「愛する」ということ。』(監修:ヤマザキ動物看護大学准教授 新島典子先生)
監修/今井巡先生(相模原プリモ動物医療センター第2病院院長)
文/hasebe
※アンケート/「いぬのきもちアプリ」アンケート『犬の介護アンケート【VOL.70】』より
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
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