犬のお困り行動のひとつ「唸り」。今回は、犬が唸る理由と、それに合ったしつけのポイントについて解説します。唸る行為をそのままにしておくと、ほかの問題行動を引き起こすおそれもあるので、原因を見つけてしっかりと対処していきましょう。
犬が唸る主な理由とは?
犬の唸るという行動には、さまざまな意味や理由があります。唸る理由を知っておくと、対策やしつけがしやすくなるため、しっかりと確認しておきましょう。
所有欲のあらわれ
犬には、大切なものを取られたくないという所有欲(独占欲)があるため、大切なものが奪われそうになると、唸り声を上げて相手を威嚇することがあります。
こうした所有欲から上げる唸り声は、噛みつくなどの行動に発展するおそれもあるので、注意しましょう。
過去の経験から唸ることも!恐怖心から
犬は身の危険を感じたり、怖い思いをしたりすると、唸ってどうにか対処しようとすることがあります。虐待など、過去の嫌な経験からこのような行動をとるケースもあるので、慎重に向き合う必要があるでしょう。
苦手なことをされた嫌悪感・不快感
苦手なことをされると、嫌悪感や不快感から逃れるために唸る犬もいます。信頼している飼い主さんであれば、ある程度我慢をする犬もいますが、その限界を超えると、唸る以外に、吠えたり噛んだりする場合もあります。
知らない相手への警戒
犬の気質によって、知らない犬や人が近づいてくると、怖れて警戒し、追い払おうとして唸ることがあります。飼い主さんや仲間を守ろうとして唸るケースも見られます。
ケガや病気のおそれも!痛みのサイン
体に痛みがあることが原因で、唸る場合もあります。また、患部に触れられるのを嫌がって唸ることもあるでしょう。
触ったときに、犬が唸り声を上げて苦しそうにしていたら、全身を注意深くチェックし、動物病院へ連れて行くことが大切です。
しっぽを振る場合は、楽しくて興奮している
犬は楽しくて唸ってしまう場合もあります。飼い主さんと遊んでいる最中に、しっぽを振って唸る場合は、楽しさのあまり唸り声が出てしまっているのでしょう。
一緒に遊んで楽しむこと自体はよいことですが、興奮しすぎるとケガや事故につながるおそれも。この場合は、「マテ」などの指示をだして、一度クールダウンさせるようにしてください。
家族に唸る場合は?
犬が家族に対して唸る原因は、家族との信頼関係が築けていないか、その家族が犬の本能や習性を理解できていない、などがあげられます。
愛犬が混乱しないように、共通のルールを作って確認しあうとよいでしょう。
このなかでも、とくにしつけが必要なのは、「所有欲」「恐怖心」「嫌悪感・不快感」「縄張り意識」による唸りです。では、それぞれのしつけのポイントを見ていきましょう。
「所有欲」によって唸るときのしつけ
犬が所有欲によって唸るシーンといえば、自分が持っているおやつやおもちゃを飼い主さんに取られそうになったとき。先述したように、この行動は放っておくと噛みついたり飛びかかったりするようになるおそれがあるので、しっかりとしつけるようにしましょう。
しつけのポイント
おもちゃを取ろうとしたときに唸る場合は、おやつを見せて「ちょうだい」と声をかけ、犬がくわえているおもちゃとおやつを交換しましょう。もしおやつを持って愛犬に近付いても唸るようなら、おやつは与えずに唸るのをやめて落ち着くのを待ってから、おやつを与えてください。
この動作を繰り返して、「唸ることをやめたらよいことがある」と犬に覚えさせることで、お気に入りのものを飼い主さんが取ろうとしても、唸りにくくなるでしょう。
「恐怖心」によって唸るときのしつけ
単純に人に触られるのが好きではない犬もいますが、暴力や体罰などの過去の経験から、人の「手」に対して恐怖心をもっている犬もいます。これは「ハンドシャイ」という、心の病気(トラウマ)の一種です。ほかにも、社会化ができていない犬の場合は、飼い主さんや家族以外の手を怖がってしまうことも少なくありません。
このような場合、人の手に慣れさせようと無理に触っても、逆効果になるケースがほとんどです。人の手に対する恐怖心から唸る犬の場合は、少しずつ慣れさせていきましょう。
しつけのポイント
まずは、犬の目線よりも下に手を置いて、手からフードやおやつを与えてみましょう。最初は無理をしなくてもOKですが、触れそうな場合は犬の目線の下から軽くなでてみてください。これに慣れたら、なでるたびにフードやおやつを1粒与えるのを、毎日少しずつでも繰り返していきましょう。このとき、嫌がったらすぐにやめるのがポイントです。時間をかけながら、少しずつ犬に触れる時間を長くしていきましょう。
飼い主さんや家族以外の手を怖がる場合は、友人などに協力してもらってこの方法をやってみるのがおすすめです。ただし、あまり改善が見られない場合はしつけ教室に通うなど、プロの手を借りたほうがよいケースも。
「嫌悪感・不快感」によって唸るときのしつけ
ブラッシングや爪切り、シャンプーなどのお手入れが苦手な犬はたくさんいます。お手入れしようとすると犬が唸るのは、そんな苦手なことを遠ざけようとしているのでしょう。
しかし、愛犬の健康のために必要なお手入れもありますし、異常がないかの確認をまめにするためにも、少しずつ慣れさせていくことが大切です。
しつけのポイント
お手入れするときは、おやつをあげるなどして、お手入れに対してよいイメージをもたせるようにしましょう。このとき、おやつをあげる人とお手入れをする人、2人がかりで行うとスムーズです。
また、嫌がっている場合は無理に続けないようにし、できるところから少しずつ行っていくことも大切。どうしても難しい場合は、無理にやると信頼関係を壊してしまうおそれもあるので、プロにお願いすることも考えましょう。
「縄張り意識」によって唸るときのしつけ
犬が来客や宅配業者などの知らない人に対して唸るのは、縄張り意識からくる行動です。
本能的な行動なので、ある程度仕方のないことですが、エスカレートすると来客が帰るまで吠え続けてご近所迷惑になったり、噛むなどの攻撃的な行動をとったりすることも。やめさせるまでには時間がかかるかもしれませんが、根気よくしつけるようにしましょう。
しつけのポイント
来客時に唸るときは、おやつなどを与えながら対面させるようにしましょう。そうすることで、来客に対してよい印象をもたせます。また、子犬のころから苦手な人をつくらないように、さまざまな人と触れ合わせることも大切。
チャイムが鳴って唸る場合は、“チャイム=人が来る前触れ”と犬が学習し、追い払おうとしている可能性があります。ずっと唸ったり吠えたりするようなら、チャイムの音を変えてみても。
犬が唸る原因を探り、正しく対処して
犬が唸るというと、「威嚇している」「怒っている」というイメージが強いですが、実はさまざまな原因があることが分かりましたね。なかには、夜になると不安な気持ちになって唸る犬もいるといわれているので、どんな理由で唸っているのかをきちんと見極めることが大切です。
原因に合ったしつけや対処法で、焦らずゆっくり、不必要に唸らない犬に育てていきましょう。
監修/草場宏之先生(横浜戸塚プリモ動物病院院長)
文/kagio
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。